クマ類の繁殖力は高い
クマの専門家からは、たびたびクマ類はシカやイノシシと違って繁殖力は弱いとの理由で、個体群管理には否定的な見解が唱えられることが多い。確かに環境省による「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ類編)」(環境省 2022)には、「クマ類は一般的に自然増加率がイノシシ及びニホンジカと比較して低いと考えられること、推定個体数も少ないことから、捕獲を強化することで個体数を急激に減少させることは個体群の存続にとって負の影響を与える可能性がある」と記述されている。
しかし、同ガイドラインで示すツキノワグマとヒグマの自然増加率は、スウェーデンで管理不能に陥るまで急増した増加率(年率16%)とほぼ同じである(梶光一・小池伸介編 2015『野生動物の管理システム クマ,シカ,イノシシとの共存をめざして』KS地球環境科学専門書、講談社)。兵庫県の2つのツキノワグマ個体群も同様の増加率(16%)を示し(兵庫県 2025)、クマ類は条件が整えば、5年程度で生息数が倍増する繁殖ポテンシャルを有していると言える。
したがって、クマ類の増加率はシカに比べて低いという思い込みを払拭し、増加中の個体群に対しては、個体数を確実に低減するためにモニタリングを基に個体群管理を順応的に行う必要がある。
機能不能な現場の対策
環境省が7月、「緊急銃猟制度」を策定し、そのガイドラインを公表した(環境省 2025)。この制度によって、市町村長の判断で危険鳥獣の銃猟を捕獲者に委託し、安全確保が可能な場所(農地や河川敷等)での銃猟・クマが建物に侵入した場合の銃猟・夜間での銃猟などが可能となった。
これまでも日常的にクマが生活圏に出没している地域で、出没対応の経験が豊富で体制も整備されている市町村にとっては、より対応が迅速になるので評価できるだろう。また、「捕獲者」という用語を用いて、いわゆる「趣味で狩猟を行う者(ハンター)」と区別していることも、本制度が高度な専門性を有していることを際立たせている点で評価できる。
本ガイドラインには「事前に必要な役割分担を整理した上で、捕獲関係者も含め、役割に応じた人員をあらかじめ特定し、緊急時に実際に迅速かつ円滑に対応できる体制を整備することが重要である。その際、知識や技能を有する者が不在である場合には、訓練の実施等も体制の整備の一環として必要」と記述されている。また、これまでの狩猟や駆除とは異なるので、捕獲技術だけでなく、市町村職員と捕獲者をつなげるといった地域の鳥獣対策のリーダーでありコーディネーターを務められるような素養を育成していくことも必要と述べられている。
しかし、通常の山野の鳥獣被害対策ですら四苦八苦している市町村に、このような高度の専門性をもつ指揮官、コーディネーター、捕獲の担い手の育成と配置を委ねることができるだろうか?
