北海道奈井江町の北海道猟友会砂川支部奈井江部会が24年に町のヒグマ駆除への協力要請を条件面で折り合わず辞退した際、山岸辰人部会長は「ヒグマ駆除は、米軍の特殊部隊と森の中で戦うようなものだ」と危険性が軽視されていることを指摘している(朝日新聞 2024年5月26日)。そもそも、ヒグマの駆除でも専門的捕獲者は限定されている。ましてや、居住地へ出没したクマ対応は至難の業である。
米国でも市街地にクマが出没しているが、大学で野生動物管理学を学んだ専門家が州の正規職員として雇用されて対応している。米国にクマの取材にあたった朝日新聞の伊藤絵里奈記者は、米国の専門家に日本の状況を説明すると「民間のハンターが市街地に出たクマに対応するなんて、釣り人が人食いザメに立ち向かうようなものだ」とのコメントを紹介している(朝日新聞 2024年12月16日)。
日本には、管理を担う自治体に野生動物管理の枠組みをプランニングし、運用する人材を配置するという考えが不足している(横山真弓『【増えすぎたクマ】このままでは人間のコントロール不能なフェーズに?クマ対応の「地域力」向上に必要なこと』 )。そのため、高齢化と減少が進む狩猟者、個体数管理に踏み切れない政策、都道府県に野生動物管理専門職が不在な状況で、クマ類は増え続け、現場は管理不能な状況に陥っている。
今、何ができるか
人の生活圏へのクマ類による侵入は異常現象から日常になりつつある。まずは、あふれてくるクマの駆除はもとより、緩衝地帯でも個体数調整を進めて、クマを山に押し戻し、人への警戒心を高める必要がある。そのためには、クマの個体群管理にむけた体制整備と役割分担、その担い手育成と配置を進めるべきだろう。
今日、クマ類のみならず、イノシシやシカなども分布の拡大と個体数の増加によって、さまざまな軋轢が生じている。クマを含めた野生動物管理の専門職ならびに専門的捕獲技術者の養成を国は大学と連携して実施すべきである(日本学術会議 2019『回答 人口縮小社会における野生動物の管理のあり方』)。
近年になって、環境省・農林水産省の支援を受けて、大学間連携による野生動物管理教育カリキュラムが試行(宇野裕之, 小池 伸介,髙田 隼人2025『大学における野生動物管理教育カリキュラム 野生生物と社会』13:69-74.)、野生動物管理教育カリキュラムの認証制度の検討(鈴木正嗣,吉田正人 2025『野生動物管理学教育カリキュラムと認証制度』野生生物と社会学会13:65-68. )されている。また、知床自然アカデミーによるリカレント教育(中川元 2025『知床における野生動物管理者のリカレント教育~知床ネイチャーキャンパス~』 野生生物と社会 13:81-86. )、エゾシカ協会によるシカ捕獲者認証制度と大学の連携(伊吾田宏正 2025『北海道におけるシカ捕獲管理者制度と大学の連携~酪農学園大学の事例~』野生生物と社会学会 13:79-80.)などの取り組みが開始している。
これらの制度を活用しながら、特定計画の実現に必要な、都道府県レベルに科学行政官、市町村レベルに現場指導を行う鳥獣対策員を配置し、専門的捕獲技術者の育成を進める必要がある。
