クマ類の大量出没の主要因
ツキノワグマの大量出没の要因として、生息地における堅果類(ドングリ)の凶作により餌の供給が足りていないこと、里山の高林齢化と里地の耕作放棄地によって人里に近いところに好適な生息地となりつつあることが挙げられている(米田政明 『ツキノワグマ保護管理の課題-教訓を活かす JBN緊急クマシンポジウム&ワークショップ報告書―2006年ツキノワグマ大量出没の総括とJBNからの提言』)。兵庫県では、ドングリの豊凶把握により出没程度を高い精度で予測しており、ドングリの豊凶が出没に影響していることについては数多く報告されている。また、近年では夏季の果実の不作が夏の出没を招いていることが明らかにされている。
しかし、近年の出没頻度と規模の増加は、このドングリの豊凶に加えて、分布域と生息数の増加が影響していると考えられている(哺乳類学会 2024『今後のクマ類の管理に関する意見書の提出について』、日本クマネットワーク 2024『2023年度のクマ大量出没と人身被害 ~その実態と背景・今後に向けた課題~ 報告書』)。
ツキノワグマの出没件数と許可捕獲数および人の死傷者数の関係(2009~23年)をみると(図1)、出没件数が増加するにつれて、許可捕獲数および人の死傷者数は直線的に増加している(図2、3)。
(出所)日本野生生物研究センター(1991)および環境省「鳥獣関係統計」、クマ類による人身被害について [速報値] 環境省を基に筆者作成 写真を拡大
人との軋轢の指標である許可捕獲数(駆除数)は人の死傷者数と高い相関 (r = 0.8943, P < 0.001)がみられ(図4)、同様な関係は東北5県でも報告されている(日本クマネットワーク 2024)。すなわち、ツキノワグマの個体数増加が出没件数の増加を招き、それにともない許可捕獲数および人身被害の急増を招いたことが推測される。
ヒグマについても許可捕獲数と死傷者数は、1966年に開始された春グマ駆除が進行すると減少し、個体群回復のため春グマ駆除が廃止された90年以降に増加した傾向が読み取れる(図5、哺乳類学会2024)。ツキノワグマでは2023年に許可捕獲数(7858頭)と死傷者数(210人)、ヒグマでは23年に許可捕獲数(1684頭)、21年に死傷者数(14人)が過去最高記録を更新した。




