また、全国各地で見られる病院の統廃合は仕方のないことなのでしょうか。
A4 2022年12月31日時点の全国の医師数は約34万人に達しました。統計開始から現在まで、実は医師の総数は右肩上がりに増えています。それでも「医師不足」と呼ばれる背景には、「医師の偏在」の問題が大きく関わっています。
医師の偏在は、一般的には一部の診療科や都市部に医師が集中する現象を指します。ただ、我々は病床数が多すぎることに起因する偏在も同様に大きな問題と考えています。
人口1000人当たりの医師数をOECD加盟国と比較すると、日本は2.49人で米国の2.61人と大差ありません。しかし、1病床当たりの医師数をみると、日本は0.19人で最も少ないことが分かります。つまり、病床数が多すぎるがため医師が分散・偏在し、医師1人当たりの負担が大きくなっているのです。
病床数が多すぎるがための医師偏在は、低密度な医療にもつながりがちです。日本では一般病床を持つ病院が約7000あり、その7割が200床未満です。つまり、小規模病院が日本中に点在し、医師や看護師が分散していることを示唆しています。
重い疾患の症例数が多い医療機関ほど死亡リスクが低い傾向があることを示すデータもあり、医療提供体制が集約化された高密度医療の体制をもつ病院ほど、医療の質が高くなる傾向が見られます。全ての地域を一緒くたにして再編統合の議論を進めることは困難ですが、地域の実情に応じて、病院の再編統合による医師の集約化は「医師の働き方改革」にも、「医療の質」向上にも寄与するという視点も必要でしょう。
国民にとっては利便性が高い一方、医療財政のひっ迫など、様々な問題があります。
A5 新型コロナウイルスの感染拡大期に行われた調査では、国民の受診行動に大きな変化が見られました。例えば、下痢や嘔吐などの症状を伴う「ウイルス性腸炎」の緊急入院は、コロナ禍前と比較して7割以上減り、肺炎の緊急入院も4割近く減ったのです。つまり、新型コロナ感染予防のため、手洗い、うがい、マスク装着など衛生面の向上や、救急受診のより適切な利用など医療の需要側の受診行動の変化が影響していると考えられます。
その受診行動は、コロナ禍後に落ち着きが見られたものの、コロナ禍前の2019年と比べれば今も続いているといえます。これまで問題視されてきた国民の受診行動は適切化の傾向にあることが明らかになっており、言い換えればコロナ禍によって実需が見えてきたともいえます。国民は、自分たちの保険制度を守るためにも、医療との関わり方を見直す必要があるでしょう。


