2026年2月12日(木)

日本の医療は誰のものか

2025年9月3日

制度が助長した偏在
解消に必要な視点

 医師の地域偏在問題が顕在化したきっかけは、04年度に設置された「新臨床研修医制度」だ。医師免許取得後の2年間、初期臨床研修として様々な診療科をローテーションする制度だが、その研修先が自由に選択できた。結果、都市部の民間病院に人材が集中してしまった。

 18年に導入された「新専門医制度」では、専門医の資格を取得するために、「専攻医」として大学病院などの基幹病院や、連携病院で3年以上の研修を受けることが必須に。すると今度は、指導医や設備が充実している都市部の大学病院などに人材が集中するようになった。

 地域偏在が問題視され、国は08年に「地域枠」を、18年には新専門医制度下での医師多数県での専攻医の採用数の上限設定(シーリング)を設けたが、地域医療振興協会地域医療研究所所長の山田隆司氏は「効果は限定的だった」と指摘する。

 地域による偏在だけではない。新潟県の佐渡総合病院で外科医として働く大岩智氏は「医師が足りない地域では、実質、医師は自由に診療科を選ぶことができる。外科や救急など負担が大きい科が明らかに選ばれなくなった」と〝診療科の偏在〟による窮状を話し、「医療は国民のインフラであるはずなのに、人材が必要な場所に必要な資源が行き渡るようになっていない。これは制度として致命的な欠陥だ」と現行制度に厳しい目を向ける。

 前出の山田氏は「高度専門医療偏重の医師養成システムから脱し、地域の規模や機能に応じた医師養成に大きく転換すべきだ」と話す。加えて、「すべての専門領域の医師を地方の病院にあまねく配置することは不可能である。地域で医療を持続するには、適切な機能分化と、一人で幅広い領域をカバーできる総合診療医の育成が鍵になる」と断言する。

 近年、「総合診療医」は地域医療でその存在感を強めている。前出の星総合病院でも救急の「振り分け(トリアージ)」対応など、彼らが通常診察以外でも活躍しているという。

 総合診療医の育成が好循環を生んでいる場所がある。福島県いわき市にある「かしま病院」だ。

 同院がある地域では「東日本大震災以前から『高齢者救急を誰が診るのか』という課題があった。救急車のたらい回しや、適切な受け入れ先がないといった事態が日常化していた」と病院長の石井敦氏は話す。

 このままでは地域の医療が崩壊するという危機感から、同院では救急搬送の受け皿として「断らない」という方針を決めた。

 「人手不足の中、ありえないと思われるかもしれないが、方針を決めてから皆で実現する方法を考えた。その結果、常に考える習慣が身に付き、従来の当番制や職種の枠にとらわれないやり方で、ほぼ100%の受け入れを実現した」(同氏)

 この方針を支えたのが多職種によるチーム医療と学び合いの精神だ。医師だけでなく、看護師、コメディカルなど、全員を巻き込んで、「皆で救急を受け、共に学ぶ」という意識が共有されたことで、総合診療医を中心に、一人が何役も兼ねるオールラウンダーが自然と育っていった。

左から髙田医師、戸倉医師、石井病院長、広報企画室の湯田眞美さん、水野希実さん

 地域医療のあるべき姿を体現する同院の姿勢が次第に周囲に認知され、医育機関ではないながら、かしま病院に学びに来る初期研修医や総合診療の専攻医が増えていった。


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