こうした研修生たちに医療における「プロセス」の大切さを伝えているのが同院総合診療科医長の渡邉聡子氏だ。
「忙しいと、診断をつけることや治療を成功させることを優先しがちになる。その中でも、患者さんやその家族に思いをはせて寄り添える医療人になってほしい」という思いから、同氏を中心に22年に「いとちプロジェクト」をスタートした。
「いとち」は、「医療」と「地域」の頭文字をとった造語であり、その名の通り、医療をまちの営みの中で育むことを目指している。研修生は、医療現場だけでなく、まち全体を学びの〝フィールド〟として回り、被災地の現状を見たり、時には保育園で園児たちと遊ぶこともある。それぞれの場所で見て、聞いて、感じることで、医師である前に地域住民として地域を理解し、人とのつながりの中で医療を実践する感覚を身に付けていく。
「チーム診療を行う上では、患者さんやその家族を見る〝眼差し〟が統一されていることが重要になる。口頭で説明されるだけなく、実際に地域に入って〝体感〟することでこそ、それは養われる」(渡邉氏)
今年6月には地元朝市で健康相談ブースを出展し、地元の方との交流を深めた。参加した専攻医の戸倉幸大氏は「患者さんではない方と話すのはとても新鮮な体験だった。相談は血圧が高いとか、できものができたとか、病院にいくほどでもない症状だが、地域の方の健康課題を考えるきっかけになった」と話す。
かしま病院の取り組みは、「人手不足だから来てほしい」という補填的な発想とは明確に一線を画す。ここで学び、成長したいと思わせる場としての魅力こそが人を動かす。
もちろん、同院で学んだ卒業生が全員かしま病院の勤務医になるわけではない。石井氏は「最初は100人受け入れても全然帰ってこないという感覚があった。ただ、地道に続けていく中で、最近は思わぬところから研修生が来ることもあり、芽が出始めている感覚がある。表面上は何も起きていなくても、水面下で脈々と根が広がっている」と手ごたえを感じる。
地方だけの問題ではない
補填を脱した改革を
翻って東京。厚労省の「医師偏在指標」によれば、最も潤沢に医師がいる東京都だが、順天堂大学医学部総合診療科教授の内藤俊夫氏は「偏在を地方だけの課題と捉えると現状を見誤る」と指摘し、「東京でも医師が充足していない医療機関も多い。人手不足による『人材配置』と捉えず『どこで、誰を、どう育てるか』という中長期視点に立たなければいけない」と続ける。
ただ、「新たに総合診療医を育てて効果を出すには10年かかると思った方がいい。実際にはそこまで持たない病院も多い」とし、短期的には「セカンドキャリア」としての総合診療医の育成が急務であると話す。
地域では人手不足により、〝事実上〟総合診療を行っている専門医が大勢いる。同氏はこうした潜在的な地域の人材のリカレント教育とネットワークの構築によって、単なる充足ではない解決を目指している。
全国各地で叫ばれる医師不足。困難を抱える医療機関が、それぞれに人材獲得競争をしても、それはその場しのぎに過ぎない。病院経営者は、既存の価値観にとらわれることなく、覚悟を持って「本当に地域に必要な人材」の育成に舵を切ってほしい。そして、地域医療構想の旗振り役は各都道府県である。理想の「絵」を描くだけで、運用を現場に任せきりでは、何も変わらない。地域のために、今こそ本気になるときだ。
