頼れない移民労働者
人口減は労働者の深刻な不足という形で、経済の先行きにも深刻な影を落としている。ロシアのコチャコフ労働社会保障相は7月、プーチン大統領に対して同国が2030年までに最大310万人の労働力不足に陥ると報告した。
310万人という数字は、首都モスクワの人口の約4分の1に匹敵する規模だ。特に建設業、製造業で労働力不足が深刻化しており、高齢化を背景にした熟練労働者の減少も指摘される。
労働者不足問題の解決に有効なのは、海外からの移民労働者の受け入れだ。この点で本来ロシアは、旧ソ連圏からの労働者を従来は大量に受け入れており、それが近年の経済成長を支えていた。
ロシアの人口約1億4000万人のうち、実に約5%にあたる700万人あまりが外国からの移民とされる。その8割はタジクやウズベキスタン、キルギスなど中央アジア出身者で、彼らの多くは店舗の従業員や清掃、ドライバー、建設労働者などとしてロシア経済を底辺で支えてきた。ロシア語という共通言語があり、自国よりはるかに給与水準が高いロシアは、これらの中央アジア出身者らに魅力だった。
ただ、ロシアでは外国人労働者の受け入れと、排外主義の傾向の強まりの間で揺れ動いており、現在は再び排外主義が強まっているとされる。
特に昨年、タジキスタン人4人がモスクワ郊外のコンサートホールで銃を乱射して約140人が死亡する大規模テロ事件が発生して以降は、その傾向が強まっているもようだ。ロシアではタジキスタン人が運転するタクシーへの乗車拒否や、経営する店舗への放火などが発生した。
移民労働者たちは、ロシア人と共存しているように見えるが、実際には多くのロシア人は彼らが社会の低位にいるとみなしている。プーチン政権は労働者不足を理由に、安易に移民受け入れを増大することはできないのが実情だ。
ロシアの若者らは、自身の子どもが将来徴兵され、女の子であれば夫を戦争で失うことになる危険が高まっている事実を、他国の誰よりも理解している。そのような状況下で子どもを多く持とうなどと呼びかける政権の訴えを、若者たちは冷笑するほかはない。
