センターはリハビリを行うだけではなくセラピーの場でもある。フリースペースでは帰還兵がコーヒーを飲みながらリラックスした様子で、スタッフや他の帰還兵と談笑している光景を頻繁に見かけた。
ともすると帰還兵は引きこもりがちになり、自暴自棄にも陥りやすい。さらに凄惨な戦争体験がトラウマになり様々な症状を引き起こすPTSD (心的外傷後ストレス障害)を発症するリスクも高い。
センターに通うことによって他の負傷兵と戦争の体験を共有し、一緒に過酷なリハビリを乗り越えることで、肉体だけでなく精神面の回復も見込める。センターは個々のプライバシーを重視するよりも、あえて物理的な仕切りを設けず他者との交流を促しているようだ。
足りていない人と物の供給
課題は明確だ。短い期間でこれほど多くの人が四肢を失うのは初めてのことで、受け入れ側の体制が整っていない。
侵攻開始からおよそ3年半の間に四肢のいずれかを失った兵士は5万人以上と推測される。砲弾や地雷により足や腕を失うケースの他に、戦闘中のため負傷した兵士をすぐに救出することができず、治療が遅れ切断を余儀なくされた場合もある。
医師、理学療法士、義肢装具士ら多くの専門家が必要とされているものの、戦時下で十分な人員を揃えるのは難しい。また、一人ひとりに合った義足・義手が必要で、インプラントの埋め込みには高額な手術費用(2万5000ユーロ、約420万円)がかかり、すべて完了するまでに複数回の手術を受けなければならない。
負傷兵の数は現在進行形で増え続けており、治療を待っている患者がたくさんいる。人材の確保や高額な手術料の負担、インプラントの安定した生産と供給など、戦時下のウクライナだけでは態勢を整えるには限度がある。諸外国やNGO団体などからの支援が不可欠だろう。
