農事組合法人に対しては毎年、全耕地面積のうち一定割合をコメ以外の転作をするよう富山県を通じて入善町に要請される。25年の転作比率は39%、26年は37%を予定しているという。
そうした状況の中、政府はコメ価格の高騰を受けて急きょ「コメの増産」方針を打ち出した。あおしまの農家たちからは「田植えが終わってから増産と言われても、何もできない」という声が聞かれ、戸惑いの表情があった。
直ぐにはできないコメ増産
農作業で流した涙……
大角代表理事は「農作物は1年かけて育てるもので、計画や育苗、農地の確保など事前の準備にかなりの年月が必要になる。来年度の転作計画も既に組んでおり、政府が発表したからと言って、直ぐに増産できないのが現実だ」と困惑する。現場の実態とは大きなギャップがあり、「政府発表はパフォーマンスに過ぎない」というのが多くの農家の率直な思いなのではないか。
150アールほどの耕作地を農事組合法人に提供している大角代表理事の場合、22年のコメ作りによる年間収入は「サラリーマンの平均月収よりほんの少し上」くらいだという。これから税金、追加肥料、除草剤費用などを引くと赤字は必至だ。当然、人件費は入っていない。「兼業農家は他の収入があるから何とか続けられているが、田んぼの収入は、農機具など諸経費が上がっていることもあって、ほとんどないに等しい。メディアは『兼業農家は儲かっている』と報じるが、現実は全く違う」と切実な声が出る。
農作業の負担は農家に嫁いだ配偶者にも目に見えない形でのしかかってくる。大角代表理事の夫人は、人手が足りない時は転作した大豆の雑草取りを手伝うことがある。夫人は「水田と違って大豆は乾地管理。除草剤を散布しても風向きが悪かった場合や、雑草の種類によっては効果が望めない場合がある。大豆よりも草丈が長くなり青々とした雑草が目立つため、この状況を見て見ぬふりはできない。雑草を放置しておくと、収穫した大豆の等級が下がるリスクもあるため、きちんと刈っておくことが求められる」と言い、昨年の夏に起きた実際のエピソードを教えてくれた。
「大豆畑に入ると胸の高さまで大豆と雑草が伸び、暑い中で腰を曲げて雑草を抜き取りながら100メートル近い距離の往復作業は激務。しかも、5日後には雑草が勢いよく伸びていて、刈り取りをしながら、涙がぽろぽろ出てきた。『もう二度と大豆管理はしたくない』と思った。今は組合に助けられているが、先祖の田畑で働く限界はすぐそこまで来ていることを実感する。農家に嫁いだ配偶者が農作業の対価を得られるなんて夢物語」と厳しい体験を打ち明けた。
