具体的イメージのある政策を具体的に語るべき
総裁選では、各候補者が政策を掲げているが、具体的なイメージに乏しいとの指摘が出ている。中でも注目されるのが、小泉進次郎氏が掲げた「給料100万円増」や、林芳正氏の「実質賃金1%上昇を定着」、高市早苗氏や茂木敏充氏、小泉氏の「政府債務残高の対国内総生産(GDP)比を低下させる」などがある。政府債務残残高については、財政再建の指標であり、この意味を説明すると長くなるので、給料についてだけ考えたい。
小泉氏の給料100万円増は、国税庁「民間給与実態調査」の1年を通じて勤務した給与所得者の平均年収477.5万円(24年)を30年に577.5万円にするという意味である。これは、自民党が7月の参院選で掲げた公約でもあった。
これが国民に受けなかったのは、30年に100万円と言われてもピンとこなかったからだろう。であれば、もっと具体的に国民にアピールすることが必要だが、そうはなっていない。少し具体的に考えてみたい。
24年の477.5万円を30年に100万円増やして577.5万円にするには、30年までの6年間、年に3.22%ずつ増やしていけばよい(477.5×1.0322の6乗=577.5)。ところが、表1に見るように、24年の上昇率は3.9%だった。なら簡単だと思われる人もいるかもしれないが、その前の6年間の年平均は1.4%だった。1.4%では30年でも519万円で、41.5万円しか増えない。
林氏の実質賃金ではどうだろうか。様々な実質賃金の指標があるが、小泉氏に合わせて、平均給与を消費者物価で割ったものを実質賃金としよう。すると、24年は1.3%伸びていたが、その前の6年間の年平均は0.0%、すなわち、少しも伸びていなかった。
しかし、食料とエネルギーを除く消費者物価で実質化すると24年は2.0%、その前の6年間の年平均でも0.7%の上昇だった。なぜ食料とエネルギーを除くと実質賃金が高まるかと言えば、海外の原油や食料価格がロシアのウクライナ侵攻などにより上がり、それが消費者物価にも反映されていたからだ。
ただし、このような物価高騰は続かない。今年、原油価格が2倍になったからと言って、来年4倍になる訳ではない。国産のコメの価格も同じで、高いところでそのままとどまると考えるのが通常で、30年までの6年間、上がり続ける訳ではない。
したがって、今後の実質給与の伸びを考える時には、食料とエネルギーを除く物価指数で作った過去の実質賃金の伸びで予想した方が良い。そうするとやや希望が出てくる。
過去0.7%の上昇には、19年10月の8%から10%への消費税増税の影響が含まれている。消費者物価は消費税も含まれており、消費税率が引き上がると物価は押し上げられる。つまり、消費税の2%上昇を6年でならすと、年0.3%の消費者物価引き上げの要因となる。すなわち今後、消費増税がなく、エネルギーや食料のこれ以上の高騰がないとすれば、実質賃金が0.7%+0.3%の1%で成長することは可能である。
要するに、実質賃金が上がらない理由の一部は消費増税にあったのだから、将来、実質賃金を上げるためには消費税を増税してはいけないことになる。ただ、その目標と達成で本当に国民の生活の質は上がり、日本経済も改善されるのかは見えてこない。国民の最大の関心である賃金や手取り、雇用をどう改善するのかを見せなければ、民意はとてもじゃないがつかむことはできない。

