2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年10月4日

「何を問題にするか」という権力

 この傾向は単なる出版市場の偶然ではなく、「どの問題を公共の俎上に載せ、どの問題を不可視化するか」という権力勾配が働いているとも言える。

 ドイツの哲学者ユルゲン・ハーバーマスが指摘したように、現代の公共圏においては相反する立場が自由に討議することこそが社会の合理的意思形成を可能にする。政治学の多元論(プルーラリズム)の観点から見ても、民主主義にとって不可欠なのは異なる利害・視点の並存である。

 ところが実際には、特定の政治的・道徳的立場に依拠する言説ばかりが疑いようのない「正しさ」「やさしさ」として承認され、「対象外」にされた社会的少数者や弱者の声は透明化される。異論を唱えれば検証すら無く「差別」「ヘイト」とレッテル化され、議論の土俵から排除されている。

 ただし、排除・透明化され、蔑ろにされ続け「忘れられた」人々には強い不満が蓄積し続ける。やがてその不満が既存の政治や言論秩序への反発として噴き出し、予期せぬ形で政治的な支持や運動を生む。それが近年のトランプ大統領再選や、我が国における参政党の躍進にも繋がったのではないか。

 出版妨害など、表現の場からの一方的な異論排除が繰り返されれば、社会は健全な討議の土壌を失い、暴力がまかり通る空気さえ生みかねない。既にその兆候はいくつも示されている。

 だからこそ、「異論には言論で対峙する」「暴力的な言論封殺には一切の報酬を与えない」という原則を共有することが、民主主義を守るために私たちが取り得る最も重要な方策ではないだろうか。

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