米国の首都ワシントンから南西に約50キロメートルにあるバージニア州クワンティコの海兵隊基地に9月30日、800人ほどの将軍や提督ら米軍幹部が集められた。世界中に展開する米軍の中で、将官クラスを理由も告げずに急遽呼び寄せた異例の会合であった。
召集の目的が何であるかのヒントは、バイデン政権時に軍の制服組トップである統合参謀本部議長にアフリカ系で初めて就任していたブラウン議長や、女性で初めて海軍作戦部長に就任したリサ・フランケッティ部長が、トランプ政権発足後に解任させられていることにあるのではないか、と多くの幹部は感じ取っていた。特にフランケッティ作戦部長は、ヘグセス長官によって、DEIによって就任した人物と名指しされていた。
また、トランプ大統領が9月5日に、国防総省を戦争省と呼ぶよう指示する大統領覚書に署名していたことが関係しているのでは、と考える向きもあった。正式な名称変更には議会の同意が必要になるのだが、合衆国憲法によって軍の最高司令長官と定められている大統領が戦争省と呼ぶようにと指示している事実は重かった。
この覚書へ大統領が署名したときに傍らにいたヘグセス国防長官は「この名称変更は、復元が目的だ」と述べていた。ペンタゴンを過去へ戻そうというのである。
「誤ったこと」を正す
任地では通常最高位の存在であり、招集の目的を知らされないまま大きなホールにまとめて集められた将軍たちは落ち着かない様子だった。ヘグセス長官が壇上に現れ「グッド・モーニング」と挨拶した時、皆が「グッド・モーニング」と挨拶を返すのにわずかに間があったことに、将官たちの居心地の悪さが表れているように見えた。
まず、ヘグセスは、国防総省の時代は終わり、戦争省の時代になったと告げ、「誰も戦争を望んではいないが、平和を享受できるのは、平和を守るために喜んで戦争ができる者だけだと歴史は教えている」と述べた。
その上で、ヘグセスは、その日の演説の本題は、人であり文化であると切り出した。いかなる計画や改革も、戦争省に「正しい」人々がいて「正しい」文化がなければ成功しないと述べ、これまで軍は「愚かで無謀な政治家たち」によって誤ったことに集中させられてきたので、それを正すことについて話すというのである。
