自由化された電力市場でも、石炭と原子力主体のエナジー・フューチャーは競争力があり収益性は高いはずだった。しかし、補助金のある風力とシェール革命により、07年に1kW時当たり10.11セントだったテキサス州の平均電気料金は13年には10.08セントと下落してしまった。さらに、リーマンショックによる電力需要の低迷が追い打ちをかけ、結局、買収時の大きな負債額の返済に行き詰ってしまった。
バフェットは07年の買収時に、自らの投資会社バークシャー・ハサウエーを通し、エナジー・フューチャーの社債を20億ドル購入していた。LBOを嫌っているバフェットとしては珍しいと報道されている出来事だ。エナジー・フューチャーの破産が囁かれ始めた時点で売却したが、その売却額は2億5900万ドルだった。また、社債の金利を購入後8億3700万ドル受け取っている。結果的に被った損失は9億ドル弱だ。
しかし、バフェットはアイオワ州に電力会社を持ち、全米の風力発電設備能力の6%を保有している。再エネ事業には既に130億ドルの投資を行っていると報道されている。再エネに投資する傍ら、再エネと競合する事業の社債にも投資していたと考えれば、お金持ちのリスク分散の方法にも見えてしまう。
投機の結果誰も発電設備を作らなくなる
電力会社も投機対象となってしまうのは、自由化された市場だからだ。電力会社が破綻しても電力供給は続けられるので、日本の電力会社も破綻可能にすべきとの主張があるが、それは間違いだ。強欲な投資家が投機目的で借金を重ね買収した企業が破綻するのは、業種を問わず仕方がないことかもしれない。しかし、電力事業では他と異なる事情がある。それは、発電設備が作られなければ停電するということだ。そのためには、安定的に設備投資を行う企業が必ず必要とされる。
大きな収益をあげることが可能と思い、5兆円の資金を投じても市場と燃料価格の予測が外れ破綻する事業者が現れれば、そんな先行き不透明な事業に投資するのは躊躇するのが普通だろう。テキサス州では発電設備への投資がなくなり、いま州政府は必死になり、大規模な企業への事業の集約化を行うことにより、新規投資を呼び込んでいるが、将来の収益が見えず、再エネ法の先行きが一段と不透明になってきた米国の自由化された州で発電所への投資に踏み切る事業者は多くは出てこないだろう。
エナジー・フューチャーの例を引き、電力会社は破綻しても電力供給は続けられるから破綻しても良いと主張する人たちは、破綻後に設備への投資がなくなり、結局競争力のある価格での電力の安定供給に問題が生じるという電力事業の本質を理解していないのだろう。料金上昇を招く再エネの負の面が、欧米で大きな問題になっていることも教訓とすべきだ。先進国のなかで、日本だけが最大限の再エネ導入努力を続けることの是非を考えるべき時期だ。
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