2025年12月8日(月)

世界の記述

2025年10月17日

 争点の核心にあるのが、先進福祉国家にとって今日共通の課題の一つである財政改革だ。洋の東西を問わず、緊縮政策は国民には不評だ。

 世論調査では、債務管理=緊縮財政を国家の最優先課題と見なす国民は少数派である。国民の関心は財政赤字削減よりも、購買力の向上(物価高騰抑制)、減税、移民取り締まり・治安のようなより日常的で多岐にわたる。国民の不満は多様な形で鬱積しているのが現実だ。

ルコルニュの“約束”で予算成立の見通しで政権は安泰か

 しかしここにきて議論が集中してきたのは、23年に成立した年金改革法の修正並びに停止だ。そしてルコルニュ政府にとってカギを握るのが社会党の動きだ。

 社会党はじめ左翼野党は年金給付年齢の引き下げや積立期間の縮小をもともと主張していた(23年法では、給付開始年齢を62歳から64歳に引き上げ、満額支給のための年金積立(保険料)納付期間は35年までに現行の42年から43年に延長)。昨年バイル前政府は予算成立のために、この問題を議論することを条件に社会党の譲歩を得たのだが、実際にはバイル政府ではこの議論は進んでいなかった。

 26年度予算を可決させるため社会党の協力を仰ぐには、年金法改革での議論を進めねばならず、財政ひっ迫の折からルコルニュには厳しい交渉が待っていると予想された。社会党は第二次ルコルニュ内閣への入閣も見合わせた。

 しかし政府不信任動議が提出される懸念がある中で行われた10月14日の所信演説で、ルコルニュ首相は23年の年金法を27年大統領選挙まで停止することを約束、社会党を宥めた。留飲を下げた格好となった社会党議員は「勝利」と満悦だった。

 他方でこれをきっかけとして政府不信任動議提出可決をもくろんでいた極左「不服従のフランス(LFI)」は驚きを隠せなかった。ルペン率いる極右国民戦線も同様だった。『ルモンド』紙(10月16日)は社会党の反対を制することで、「年内予算成立のめどが立った」という見通しを示唆している。

 しかし年金をはじめとして財源をどこに見出すのか。富裕税をはじめとする課税の論議も尽きない。そうした中で極右と極左の圧力をどのようにして軽減していくのか。

 少数与党のルコルニュ政府の前途は厳しい。いずれの場合にも野党は政府不信任動議を盾に厳しく迫るであろう。マクロン政権が孤立感を深めていることに変わりはない。

 それにしても展開が早い。一日一善のような我が国の「国盗り合戦」と比べると、時間の展開も織り込み済みの「待ち」ではなく、「自分から仕掛ける」素早い政変劇だ。

 世界を篭絡する外交の背景はこんなところにもあるのかもしれない。ドタバタ劇には変わりはないが、一縷の学ぶべきところはあるのかもしれない。

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