2025年12月8日(月)

Wedge REPORT

2025年10月17日

 AT&Tといえば、かつては従業員100万人以上を擁した米国の巨大通信会社を指したが、反トラスト法(米独禁法)訴訟に伴う84年の会社分割により、同社の地域通信事業は7つのベル子会社(ベビーベル)に分かれ、AT&T自体は長距離通信や国際通信を担う会社となった。しかし96年の電気通信法の改正による米通信放送市場の規制緩和で、地域通信会社の合従連衡が進んだ。

米ダラス市内にあるAT&Tの本社

 ダラスを本拠地とした当時の地域通信会社、サウスウェスタン・ベルがベル・サウスやパシフィック・テレシス、アメリテック、AT&Tなど他の通信会社を買収し、新たに誕生したのが今日のAT&Tである。富士通はそうしたAT&Tと長らく取引をしており、北米の通信機器事業において1Finityは約1割のシェアを持つ。

 今回、AT&Tが光ネットワークに大きくカジを切ったことから、1Finityは得意とする光技術をテコに現在約1600億円の売上高を30年までに1.5倍に拡大しようと計画している。

 NTT西日本の社長から1Finityの社長に転じた森林正彰氏は現地で筆者の取材に応え、「IOWNを上手に活用できれば、日本企業がグローバルな通信市場で再びリードできる可能性がある」と指摘する。1Finityは世界で約4800人の社員を抱えるが、うち約700人がダラスにおり、IOWNが米国のIT企業に採用されれば、「北米でのビジネス機会がより拡大する」と期待を示す。

生成AIの登場が追い風に

 IOWNグローバルフォーラムの中間メンバー会議では、フォーラム活動の成果を対外的に発表する「FUTURES(フューチャーズ)」という公開セッションも設けられた。フォーラムの会長を務めるNTTの川添雄彦チーフエグゼクティブフェロー(前副社長)が開会の辞を述べ、「生成AIの登場により、IOWNに対する関心が大きく高まった」と強調した。

FUTURESで開会の挨拶をする川添NTTチーフエグゼクティブフェロー

 IOWNグローバルフォーラムがスタートした20年はちょうど新型コロナウィルスの感染拡大が始まった時期と重なっている。川添氏は「コロナ禍でオンライン会議やリモートワークなどのネットワーク需要が大きく高まったが、22年11月に米オープンAIがChatGPTを投入したことで生成AIブームに火が付き、IOWNの省電力機能に対しさらに大きな期待が高まった」という。

 今回のダラス会議はフォーラムが進めてきたIOWNのPOC(概念実証)の成果を公開する重要な場にもなった。日本では9月後半に国立競技場で「世界陸上競技選手権大会(世界陸上)」が開催され、報道を担ったTBSテレビはIOWNによる放送番組のリモート制作技術を使って様々な競技を放映した。

 スポーツ中継にはこれまで競技会場に大きな中継車を持ち込み、車内で映像素材を編集して放送局に送っていたが、高速大容量のAPNを活用することで映像素材をそのまま放送局に伝送し、局内で編集作業ができるようになった。これにより中継車の配備などにかかるコストが削減され、編集作業の自由度も大きく高まったという。

 他のPOCについては金融機関向けデータセンターの地域分散化や生成AIに利用されるGPU(画像処理半導体)データセンターの共同利用なども成果を挙げている。金融機関向けのデータセンターは証券取引所などがある都市部に置く必要があったが、APNを活用すれば電力コストの安い地方に設備を配置するなどデータセンターの分散化が可能になる。またGPUデータセンターについてもAPN接続により複数のユーザー企業で設備を共同利用できるようになる。


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