世界で進む「管理法」
ところで、世界的には森林管理の厳格化よりも、木材のサプライチェーンの監視に森林破壊防止の力点が移りつつある。なぜなら森林の持続性に疑問符がつく伐採であっても、その国の法律では合法とされる場合が多いからだ。また合法と確認できないが違法の証拠もない……いわゆるグレーな木材の取引を認める国も少なくない(日本もそうである)。
たとえば東南アジアのアブラヤシのプランテーションや、カナダやアメリカ、あるいはベトナムやインドネシアで進む木質燃料生産などは、政府のお墨付きで行われるものが多く、合法と主張されている。
そこで木材取引をする業者自ら森林の状態を確認する(デューデリジェンス)ことが重要とされ始めた。合法か適法よりも森林の持続性の確認に重きを置くのだ。なかでも欧州委員会が作成したEUDR(森林破壊防止規則)は、画期的な内容である。
EUDRは、23年に定められた。欧州連合(EU)域内に森林関連製品を輸入・販売・輸出する企業に対し、それらを生産する際に森林破壊を伴っていないか確認を求める規則だ。生産地の地理的位置情報まで求め、違反すれば罰則もある極めて厳密なルールである。
対象となる森林関連製品とは、木材だけではない。パーム油、大豆、牛肉、コーヒー、カカオ、天然ゴムといった農産物・天然物質も含む。それらを生産する農園開発に森林破壊が伴っていないか確認を要求する。さらに、これらを原料に作られる派生商品……紙や家具、チョコレート、油脂、タイヤ、皮革、家畜飼料など多様な項目が対象になる。
パーム油や大豆などから作られる派生商品は莫大だ。それら全ての原材料の素性を全部確認しないと輸入も販売もできないことになる。
仮に生産国の法律に合致していても、EU側の業者の調査によって森林破壊を伴っていたとわかれば、輸入できなくなる。「合法でも森林破壊したらダメ」なのである。
EUのバイニングパワー(消費力)による森林破壊防止策と言えるかもしれない。しかもチェック項目には、森林保護だけではなく、気候変動の緩和、生物多様性の保全、先住民族の人権尊重といった幅広い視点を含んでいる。
実効性は道半ば
ただEUDRは、24年12月からスタートのはずだったが、業者の調査確認が間に合わないとされて1年延期した。ところが今年12月を迎えるにあたって、もう1年延期する協議を開始するという報道が流れている。
バーム油の生産国であるインドネシア、マレーシア、さらにカカオのガーナ、コーヒー豆の中南米、そしてアメリカもEUDRは非関税障壁だと強く反発している。中国は国防上の理由で地理的位置情報の提供を認めていない。
輸出国の生産者や輸出者の協力を得られないと、実効性は落ちる。それが延期理由の一つである。
いくらあの手この手の厳しい規則を決めても、森林破壊を止めるのは至難の業だ。しかし少しでも手綱を緩めると、野放図に拡大する森林破壊は止められないだろう。
日本政府もクリーンウッド法だけではなく、森林の抱える諸問題にもう少し厳格に取り組むことを期待したい。
