2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年10月8日

 かつて林野庁で民有林林道の担当をしていた。民有林行政は、何かと批判の多い補助金行政なのだが、林道事業は1番の人気だった。それは市町村からの要望が高かったからである。同じ森林土木でも治山事業は都道府県が実施主体だったので比較的上品だったが、林道はより現場に近い山村部の市町村にとっての必需品であったため、予算の奪い合いになっていた。

林道脇でトラックへの積み込みを待つ丸太群(筆者提供、以下同)

 林道の表の顔は一応林業を実行するための道であって、そのために目標が設けられていた。林道密度と呼ばれる指標があって、森林1ヘクタール当たりすなわち100メートル四方に何メートルの林道が存在するかを示していた。その全国的目標は20メートル/ヘクタールとされていた。林道密度には、林道以外に森林内を通る市町村道などの公道もカウントされている。

 森林の各所から伐採した樹木を集めて(集材)、トラックに積み込み、林道を通行して消費地へ運び出す(運材)。この集材・運材作業を効率的に行う基準として20メートル/ヘクタールが定められていた。模式的に考えれば、水平距離で500メートルの斜面の中央に1本林道が通っていることになる。(図1)

 さわさりながら、市町村の本心は山村集落を結ぶ生活道としての林道開設にあったのだ。都市部などの一般的な場所では、生活道は国土交通省の道路事業で建設するのが一般的であった。ところが道路計画は縛りが厳しく、採択までの待機も長かった。その点林道は地域森林計画(当時は都道府県知事が作成)に乗せれば補助対象になったので、非常に融通が利くし、建設単価も安かった。

 そこで、山間部に散らばる集落と町場を結ぶ林道の開設が人気を博したのである。これが林道の裏の顔、いやこちらこそ山村にとっては表の顔だったのかも知れない。


新着記事

»もっと見る