進まぬ林道整備
全国2500万ヘクタールに20メートル/ヘクタールの林道整備を目標にしていたが、年間の新設量は300キロメートル(2012年度)程度で、林道密度にすれば0.012メートルの伸びに過ぎない。これではほとんど永久に目標は達成できないと思ったのか、最近では行政が林道に作業道等を加え路網という概念を取り入れて、何とか整備の遅れをカバーしようと苦心しているようだ。
ここで林業の盛んなオーストリア、ドイツと比較してみたのが、図3である。路網密度の圧倒的な違いもさることながら、緑色の林道の部分の差が決定的なのである。
両国とも日本が目標としていた20メートル/ヘクタールの倍以上すでにあるのだ。これによって集材された丸太は、トラックに乗せられて、木材集積場や製材工場に直送される。
こうした生産基盤の違いが搬出コストの差に直結しており、国産材に国際競争力がない一因となっている。
ドイツ(旧西ドイツ圏)は、1960年代から70年代にかけて集中的な路網整備が進められたそうだが、日本では険阻で不安定な地質の山岳部に存在する森林において急速に林道を整備することは不可能である。
新設量は22年度には150キロメートルを下回り、10年前の半数にまで落ち込んでいる実態を見ても、林道新設が今後も画期的に伸びることは期待できない。
ぽつんと一軒家
また、山村の生活道としての林道新設の需要も止まってしまった。限界集落はすでに消滅への途上にある。
「ぽつんと一軒家」という人気テレビ番組がある。山奥に残された一軒家を訪ねて、住人のお話を聞く。都会人にとっては、怖いもの見たさで興味深々なのだ。
番組スタッフが一軒家に辿り着くまでの道中も、見どころの一つで、明らかに林道として開設された道をたどっていく。きついカーブの連続で、谷側は急斜面でガードレールもないところがほとんどで、スリル満点だ。案内人を買って出た地元の人の軽トラがそこをすいすいと走っていき、番組スタッフの車はいつも置いてけぼりをくう。
辿り着いた一軒家で、以前は何10戸もある集落だったと聞かされ、麓まで歩道を通った苦労を知らされる。電気が通り、林道ができてやっと生活水準が追いついたのである。
こうして偉大な林道は山村集落を陸の孤島から救ったが、やがて山村の人々は林道に吸い寄せられるようにして町場へ出ていった。図らずや生活林道は山村の消滅を促進してしまったのだ。そして今や林道は山村消滅をリアルタイムで可視化する重要な脇役となっている。
生活道としての林道の役割がなくなり、市町村からの需要が減少したことが、林道の新設が激減した一因であろう。


