前半の反省から後半への切り替え
前半は攻撃力の高いブラジルに対して、右ウイングバックの堂安律、左の中村敬斗をセンターバック3人と同じ高さに並べる。5-4-1システムとも言える布陣で構えた。ボールを奪うよりは、自由にやらせないことを意図した守備だ。
もちろん防戦一方ではなく、攻撃に転じれば、右は久保建英と堂安がポジションを入れ替えながら相手ディフェンスの混乱を誘う。左は中村がボールを持って前を向いたら縦に仕掛け、機を見て左センターバックの鈴木淳之介が攻め上がるなど、全くチャンスが作れていないわけではなかった。
ただし、ほぼ前半を通じて後ろに構える守備であるがゆえに、ゴールから距離が遠く、ブラジルも守備人数が揃っているため、なかなか危険なエリアでのシュートに持ち込むことはできない。逆に押し込まれた時に、自陣深くまで下がり過ぎたところを見事なコンビネーションで破られて2失点。ブラジルのチャンスもそう多くはなかったが、さすがの決定力を見せつけられた前半だった。
「もう1回、我々が戦うところ、ハードワークするところを見せるよ。1点ずつ行くぞ」。右手の拳を左の掌に打ちつけながら、森保監督は選手たちに改めて戦う姿勢を伝えた。
後半の立ち上がりからハイプレスに切り替える。GK鈴木彩艶のロングキックを起点に押し上げたところで、相手ボールになると上田綺世を先頭に果敢なハイプレスをかけ、驚いたブラジル側のミスを誘発。南野拓実が反撃の狼煙を上げるゴールネットを揺らす。後半8分の出来事だった。
そこから森保監督は、左の足首が万全ではない久保建英に代わり、サイドアタッカーの伊東純也を投入する。ここで定石として考えられるのは、堂安が久保のいたポジションに上がり、伊東がウイングバックに入る形だ。堂安も選手交代の瞬間はそう思ったという。
しかし実際は、伊東を伝令役として「律はそのまま」と指示された。その采配について堂安は「すげぇな」と思わず唸った。「僕がウイングバックのままで、(伊東)純也くんをシャドーに置いたのも意図を感じました。純也くんを走らせたいのかな」と堂安。
日本が勢いづく中で、伊東の鋭い仕掛けはブラジルの左サイドを見事に打ち破った。同点ゴールは伊東のクロスを、昨シーズンまで所属クラブで同僚だった中村が左で合わせる形から生まれた。
直前のパラグアイ戦の教訓も生かす
堂安によると、ハーフタイムのロッカールームで森保監督は、選手たちが中で見えていた感覚を確認しながら、監督自身の外からの目とすり合わせ、後半の方針を選手に伝えたという。
もちろん限られた時間で要点を指示して、攻撃担当の名波浩コーチや守備担当の斉藤俊秀コーチを交え、選手間のコミュニケーションを尊重する。決して頭ごなしにならないところは”森保流”と言えるが、やはりカタールW杯を経験している選手が多いことは強みになっているようだ。
