W杯本戦に向けた課題
“第一次・森保ジャパン”とも言われるカタールW杯までのサイクルは、森保監督の采配も探り探りのところはあった。それは対戦相手との間合いもそうだし、一つひとつの采配における戦術的な効果だけでなく、選手たちのリアクションも、色々な所属クラブから集まってくる代表チームならではの難しさがある。ただし、選手は一人ひとりが強い意志を持っており、それをうまく取り入れることができれば、限られた活動期間でもチームとしてまとまることを、森保監督は経験を通じて学んできたのだ。
今後に向けての課題も明確だ。結果的に0-2から逆転勝利できたが、親善試合も含めて、ブラジルが2点差を逆転されたことは100年以上の歴史でほとんど記録がない。世界上位の強豪が相手でも、本来であれば0-0、悪くても0-1で前半を乗り切り、後半のギアチェンジにつなげるのがセオリーだ。そのためにはゴール前で決めさせない局面の強さだけでなく、前半のような戦い方の中でも、引きすぎずにミドルゾーンで相手の攻撃を受け止める時間を増やすことも大事になってくる。
もちろん夏場の大会、しかも初戦から決勝まで最大8試合を戦う中で、多少メンバーが替わってもパフォーマンスを落とさず戦うには、経験の浅い選手たちの成長も必要だ。森保監督は「常にその時のベストでチーム編成をし、選手の成長と序列の変化を見極めながら最高最強のチームを作る」と語る。それこそ、ここから本番までの8カ月で、森保監督に課された大きな課題だろう。
単なる戦術指示にとどまらない。選手一人ひとりの役割を明確にし、メンタル面も含めた修正力を試合中に発揮させることで、歴史的勝利を導いた。堂安の言葉が象徴するように、個々の判断と役割を信頼して任せるマネジメント、選手が自信を持ってプレーできる環境を作ることが、”森保ジャパン”の強さの核心である。言わば心理的マネジメントを戦術に取り込んだ采配だ。
ブラジル戦は、Jリーグをはじめとする日本サッカーの積み重ねを背景として、森保監督の柔軟な思考と采配に選手の働きが噛み合い、歴史的な逆転勝利に結びついた。しかし、あくまで親善試合に過ぎない。
この貴重な経験を糧に、ここからどういったものを積み上げて、アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国で開催される2026年のW杯につなげていくか。そのキャスティングボードは間違いなく、森保監督が握っている。
