春の改編のドラマの影の主役は実は、松本清張原作の作品群であった。テレビ朝日とフジテレビが開局55周年を記念するドラマとして、清張物を選んだのは偶然とはいえないだろう。テレ朝は「三億円事件」と「黒い福音」を、フジは「時間の習俗」と「死の発送」を。
テレビドラマのみならず、映画も含めて、清張作品は幾度も映像化され、そのストーリーの展開と、登場人物たちのセリフの応酬、そして、登場人物たちはかつての推理小説に現われるような天才的な探偵たちではない。
原作が映像化を刺激する
圧倒的な風景描写
そして、原作が映像化を刺激する圧倒的な風景描写である。代表作の『点と線』の刑事が登場する『時間の習俗』から、冒頭の門司市(現在の北九州市)の神社の旧暦の行事のくだりである。
「狭い民家の細長いつながりは、途中で切れている。この辺の家は、昼間だとの気に若布(ワカメ)などを干したりして、魚の臭いが強かった。
バスは鳥居の傍(そば)で止まった。客はぞろぞろと鳥居をくぐってゆく」
清張の作品が現在活躍している作家に与えた影響については、わたしにはつまびらかにすることはできない。ただ、『クライマーズハイ』などで知られる、松本清張賞の受賞者である横山秀夫氏は、清張の『地方紙を買う女』を手本としていることを述べている。
『悪人』の吉田修一氏や、「ガリレオ」シリーズの東野圭吾氏らにも、清張作品の形跡を感じる。そして、その作品群、日本の映像界を豊かなものにしている。
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。