ロシアのゲラシモフ参謀総長は10月26日、ブレヴェストニク・ミサイルが21日に行われた実験で1万4000キロメートル(km)飛行し、如何に厳重に防護された標的であっても「確実な精度」で攻撃できると主張した。
プーチン大統領とゲラシモフ参謀総長によるミサイル試験に関する発言は、ウクライナ紛争におけるロシアの核態勢を示す最新の事例であり、アナリストたちは、これはロシアが米欧によるキーウへの支援を阻止しようとする試みだと分析している。
対立的なレトリックは、ウクライナの現在の戦線での戦闘停止を求めるトランプ大統領の呼びかけをロシアが拒否してから強くなった。ブダペストで予定されていたトランプ大統領とプーチン大統領の会談は中止となった。
軍事専門家たちは、このミサイルがモスクワの誇示する性能に見合うものかどうか疑問視しているが、同時に、米露関係が脆弱な中での新たな軍拡競争という状況下で、このミサイルが不安定要因となる可能性を指摘している。
国際安全保障の著名な研究者であるジェフリー・ルイス氏は、ミサイルは迎撃不可能だとするロシアの主張に疑問を呈している。彼は、このミサイルは「無敵ではない。亜音速(約260メートル/秒以下)の巡航ミサイルであり、北大西洋条約機構(NATO)軍の航空機で迎撃できる」と述べた。
「問題は、にもかかわらず、ブレヴェストニクがどちらの側にも勝利をもたらさない軍拡競争の新たな一歩になるということだ」とルイス氏はXに記した。以前の実験はエンジンが点火せず、4秒から2分間で失敗した。19年、ブレヴェストニク・ミサイルは実験失敗中に白海に沈没し、回収中に爆発が発生して放射能が放出され、核科学者を含む7人が死亡した。
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ロシアの「見せかけ」の可能性
トランプ大統領は、政権発足後10カ月目にしてようやく実質的な対露制裁に踏み切り、ウクライナ戦争を巡るロシアへの対応を転換させた。これに対しプーチンも、トランプに対する「ほめ殺し」戦術から「核の脅し」戦術へと転換したようだ。
本件記事で紹介されているロシアの原子力推進巡航ミサイル「ブレヴェストニク」の発射実験(10月21日)や、核兵器使用を想定した演習(同22日)、同じく原子力推進の水中航行体「ポセイドン」の発射実験(28日)が、それを物語っている。さらに、大陸間弾道弾「サルマト」を来年、実戦配備すると表明した(11月4日)。
ロシアの行動に影響を与える上で、このような対抗措置のエスカレーションは避けて通ることができない。ただし以下に見るように、現時点までに実施されたロシアのミサイル発射実験等は「見せかけ」の側面が強く、油断はできないが過度に緊張感を高める必要はない。プーチンの「脅し」に惑わされず、引き続き制裁を強化していくべきである。
18年3月、プーチンは6つの「先進的かつ無敵」の兵器システムを大々的に宣伝した。今回ロシアが発射実験を行った「原子力推進ブレヴェストニク巡航ミサイル」、「ポセイドン水中航行体」、実戦配備を表明した「サルマト大陸間弾道ミサイル」は、そのうちの3つに相当する(あとの3つは「アバンギャルド極超音速滑空体」、「キンジャール空中発射極超音速ミサイル」および「ペレスヴェト戦闘レーザーシステム」。うちキンジャールは極超音速と言いながら、米国のパトリオットによって迎撃されている)。
