2026年1月27日(火)

令和の京都地図

2025年11月20日

 こういうまちで育ってきたせいか、私の中にもそういう、いやらしい気分があります。例えば、東京・銀座の老舗が明治27年創業などと聞くと、『なんや、その程度で老舗と言えるんか』と思ってしまいますね」

 京都、恐るべし。そもそも、時間軸が長すぎるし、そのことが自慢になるとは……。

「ぶぶ漬け(お茶漬け)どうどす?」は
「早く帰れ」の意味なのか?

 井上さんは、京都弁の奥深さについても教えてくれた。

洛外である嵯峨で育ち、現在も同じく洛外の宇治で暮らす井上さん

 「今は絶滅したに等しい『ぶぶ漬けどうどす?』という言い回しがありますね。これは『早く帰れ』という意味になっていますが、もともとはそうではないんです。京都では、本格的に人を家に招く時は、仕出屋からちゃんと料理を取るものとされてきました。『ぶぶ漬けどうどす?』は、今、わが家にはあなたをもてなす用意がないというメッセージになります。決して意地悪ではないんです。

 京言葉がある種の標準だった時代には、よそから来る人たちは『イディオム』として、それを学習しました。例えば、『Hit the books』が『勉強する』と訳されるように、なんでこんな意味になるのかと思いながらも覚えますよね。英語教育には、丸暗記を強制する力があります。かつての京言葉にもその力があったわけです。ところが今はその力がありません。京言葉は京都弁に落ちぶれてしまったわけです。だから、『ぶぶ漬けどうどす?』は、直訳されたセリフに変わってしまったのです」

 井上さんの〝京都弁講座〟はこれだけでは終わらない。

 「京都弁は、ハラスメントで訴えられることがないと聞いたことがあるんですよ。例えば、上司に『君、ええ時計持ってるな』と言われる。普通なら、腕時計を褒めていると受け取れますが、実際は『時間にルーズやな、ええ加減にせえよ』というメッセージなわけです。

 他にも『君はいつも会議で面白いことを言ってくれて助かるわぁ』というのも、『余計なことを言うな』という意味なのですが、字面だけ見ると、ハラスメントにはなってない。〝京都のいけず〟が問題にならないのだとすると、全国の企業の中間管理職に京都弁学習講座みたいなのをしても面白いのではないですかね」

 『京都ぎらい』の発刊は2015年のこと。その後のコロナ禍が明け、再びインバウンド急増の波が押し寄せている。井上さんはこうした状況をどう捉えているのか。

 「錦市場が歩けなくなったとか、清水寺や嵐山あたりが渋谷のようになったとか、そういう声はよく耳にします。ただ、私自身、嵯峨で育ち、1970年代あたりから、空き缶や食べた後のたこ焼きの舟をそのまま捨てる迷惑な日本人観光客をたくさん見てきました。だから、外国人だけ批判するのはどうも腑に落ちない。もちろん、外国人に日本語がなかなか通じず、困ることも多いのですが、昔の日本人だって、似たようなことをしていました」


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