歴史ある京都こその難しさ
一方で、悩みも話し合われた。「京都は歴史に対する感謝が強い都市。だからこそ、変化は躊躇され進めにくい。事務処理のDX化など必要性を感じるが、何を残し何を変えるかは慎重になるようです」。前向きな後継ぎの存在は次世代への希望だ。しかし彼らは京都特有のジレンマも抱えている。それらをイベントで知り、小野寺さんはプロジェクト後もこの活動を続けたいと感じた。
24年3月、小野寺さんが立ち上げた「アトツギラボ」は、後継ぎを「アトツギ」と表記し、ゲストを呼んで月1回の勉強会を開催。アトツギたちが悩みや夢を対話し、言語化することに重点を置いた。「菓子店から町工場まで、家業を継ぐ11人で発足したのですが、メンバーは京都外にも広がり1年で100人以上になった。求人やPRの仕方、他社とのコラボレーションなど、他のアトツギから聞く経験談は、即自分への気づきになる。それを参考にして、各々が上昇していくんです。この縁を集結させ、アトツギたちがもっと多くの人とつながれるようにしたい」。
そんな小野寺さんが思いついたのは「アトツギ縁日」だ。様々な業種のアトツギが、地域に向けて多様なコンテンツを屋台さながらに見せる催しである。飲食店であれば、趣向を凝らすメニューを提供したり、段ボール梱包企業であれば、使用済み段ボールで看板や動物を作り、リサイクルを訴求する─。地域住民にも好評で来場客数が500人を超える日もある。
今年5月、理念に賛同し起業経験のある2人と共に、小野寺さんは一般社団法人応縁堂を設立した。
「人間は過去に生かされ、未来を生きている」。京都市が今後四半世紀の在り方を展望する京都基本構想にあるこの言葉を、小野寺さんは噛み締めている。「私たちはだれもが文化や遺産の享受者であり継承者です。そう考えると人類みなアトツギ。血縁だけじゃなく理念を引き継いでくれる後継者も出てくるでしょう。公務員の私も、父の言葉を受け継いでいるアトツギです」。
小野寺さんの活動は、京都から世界へ発信するサステナブル宣言にも思える。
