2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年8月12日

  観光業界において、省人化技術の導入が急速に進展している。背景には、現場が直面する「人手不足」「低生産性」「人口減少」という三重苦がある。生産性には金額ベースの効率指標である付加価値生産性と量または時間ベースの効率指標である労働生産性の2種類があるが、観光ではこの両方の生産性の問題が存在する。

(Chesky_W/gettyimages)

 コロナ禍からの需要回復後も本格的な人材確保が進んでいない。中小事業者を中心とした観光業の賃金水準が製造業と比べて低く、離職率の高さと相まって生産性の改善が進みにくい構造となっている。地方では若年層の流出と高齢化が加速し、観光地そのものの労働人口が減少しているのだ。

 2025年6月13日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」でも、省力化を推進する12業種に「飲食」や「宿泊」といった観光関連産業が含まれている。

 ただ、この省人化は、単なるコスト削減策としてはいけない。なぜなら、観光業が地域における「稼ぐ力」となり、地域内雇用の牽引役となって地域経済活性化へ寄与し得るものだからだ。

 観光業の省力化は、効率性の向上と雇用・収入面での改革を両立させることが不可欠である。また、デジタル技術の導入は、付加価値を高める「稼げる観光」を支える手段である一方で、適切な人材活用と育成資さなければ、その効果を十分に発揮することはできない。

 日本の観光産業における省力化の現状と課題をリポートしてみたい。

観光現場で進む省力化技術活用

 日本の観光産業においてもすでに、業務の効率化を目的としたテクノロジー導入が進んでいる。

 宿泊業界では、顔認証付き無人チェックイン機、スマートロック、センサー連動型清掃管理、キャッシュレス決済端末などが定着しつつある。アパホテルではタブレットによるセルフチェックインが標準化され、星野リゾートでは非対面型の予約・受付・清掃管理の一元化が図られている。

 情報提供の領域でも技術の導入は進む。京都南丹広域振興局は、AIチャットボット「Kyoto Guide ENA」による多言語対応サービスを提供し、ユーザーの位置情報を取得し、「近くのおみやげ屋はどこ?」「保津川下りへの行き方は?」といった外国人観光客の基本的な質問や道案内に英語で答えている。

 洞爺湖温泉観光協会は18年、5カ国語(日本語、英語、中国語(繁体字、簡体字)、韓国語)対応のAIチャットボット「talkappi(トーカッピ)」を導入。年間300万人以上の観光客のうち50万人ほどの外国人旅行者が宿泊するが、その9割以上に対応できるという。


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