2025年12月6日(土)

Wedge REPORT

2025年8月12日

 さらに、観光地の混雑回避と体験の質向上を目的としたAIカメラの導入も進んでいる。観光客の集中による過度の混雑や、私有地への無断侵入といったマナー違反頭を悩ませていた北海道上川郡美瑛町は、AIカメラを使用して、観光地4カ所と駐車場の人混み状況を計測し、美瑛町ホームページや、観光拠点に設置されたデジタルサイネージに「混雑中」「やや混雑」「混雑なし」の3段階表示を3分ごとに更新し、混雑状況をリアルタイムで伝えている。また、「青い池」「クリスマスツリーの木」では、特定区域への侵入を検知すると、設置されたスピーカーから警告メッセージが流れ、撮影された画像が担当者にメールで通知される。

それでも観光には「人の手」が不可欠

 とはいえ、すべてのサービスが機械化されれば、人間的な気配りや地域ならではの「ぬくもり」が薄れ、観光の魅力そのものが損なわれかねない。特に、旅館・ゲストハウス・体験型施設など“地域の顔”となる場面では、「人と人のつながり」こそが価値の中心となりうる。

 省人化と聞くと、しばしば「人を減らす」「雇用を削る」というイメージが先行する。しかし、観光の本質を見つめ直せば、それはまったく異なる目的を持つべきである。観光とは、単なるモノやサービスの消費ではなく、「人と人の出会い」「地域との関係性の構築」「思い出の共有」といった、人間的な体験に価値の中心がある産業である。

(TVアニメ「アポカリプスホテル」公式ホームページより)

 サイバーエージェントとCygamesPicturesの共同企画によるテレビアニメ『アポカリプスホテル』では、従業員ロボットが人のサービスをも上回りそうなホスピタリティを発揮しており、AIやデジタルに振り切って差別化を狙うことも可能であろうし、そうした挑戦をする事業者は必要である。とはいえ、観光における省人化の目的を、機械にできる仕事を機械に任せ、「人にしかできない仕事」に人を集中させることに設定したほうが現時点では健全であろう。

 この「人にしかできない仕事」とは、現場での接客や案内にとどまらない。たとえば、地域の文化資源の再発見や、インバウンド対応のコンテンツ開発、観光と福祉・教育との連携など、観光を地域の未来づくりにつなげていく役割も、人にしかできない創造的活動である。テクノロジーによる省人化が、それらの知的・創造的活動の時間を創出するならば、むしろ「観光に従事する人間の役割」は拡張され、進化する。

 つまり、観光のスマート化とは「効率化による人間の排除」ではなく、「人の価値を可視化し、活かす構造」への転換である。観光地のサービス品質を守るためにも、省人化と人間の創意工夫は両立すべきであり、その両立こそがこれからの観光地域経営の中核となる考え方である。

 その際留意すべき点もいくつかある。例えば、システムやツールが現場の実態に合っていないまま導入されると、現場スタッフの負担が逆に増える。特に観光業では業務が多様かつ季節変動が大きいため、汎用的なITツールでは対応しきれないことが多い。

 ある人気観光地の一部の宿泊施設では、外国人観光客向けにAI翻訳付きタブレットを導入したが、使い方が直感的でなく、かえってスタッフが外国語対応の補助を行う場面が増え、人の負担が減らず、むしろ複雑化した。ある老舗旅館で顔認証チェックインを導入したが、年配の常連客や外国人観光客から「冷たい対応になった」「歓迎されていない感じがする」といった声が出た事例も聞く。


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