省人化が進み、無人化されたフロントやセルフオーダーが当たり前になると、スタッフ同士のコミュニケーションが減り、現場の協調性が低下する可能性もある。経営面から気になるのは技術導入を「コストカットの口実」として誤用し、本来必要な“人間の介在”まで削減してしまうケースである。
最適なバランスはある程度実証実験をしながら進めざるを得ないだろうし、最適なバランスは状況の変化とともに変わりうることを意識して、適切な観光のスマート化、人の価値を最大化する省人化を進める必要がある。
省人化が導く観光の未来像
「新しい資本主義」の下で観光産業が果たすべき役割は、単なる観光客の集客や地域収入の一時的増加にとどまらない。それは、人口減少・高齢化・気候変動といった構造的課題に対応しつつ、地域社会の持続性と文化的多様性を育み、経済と社会の再構築に資する「未来型の地域経営モデル」を担うことにある。そのためには、観光の現場を担う人々が“量”ではなく“質”で価値を生み出せるような仕組みを整える必要がある。
「新しい資本主義」が掲げる理念――すなわち「人への投資を成長へ、成長の成果を分配へ」という好循環の実現は、観光分野において最も実体的に体現される可能性が高い。観光は、土地と人、文化と経済を結びつける特異な産業であり、そこに関わる人々の働き方や成長の仕方が、地域社会のあり方そのものを左右する。
今後、テクノロジーの進化がいかに加速しようとも、観光の本質が「人と人との出会い」である限り、“人の価値”は失われない。むしろ、デジタルによって“人の強み”がいっそう浮き彫りになる時代が到来している。省人化と人材育成の両輪で構築される未来の観光は、単なる“効率の最適化”ではなく、“関係の最適化”を通じて、地域社会をしなやかに再生する力を持つはずである。
したがって、これからの観光政策や地域戦略に求められるのは、「人を減らす仕組み」ではなく、「(少ない人員で)人が活きる仕組み」の設計である。新しい資本主義の実践において、観光はその最前線に立つリーダー産業となる可能性を秘めている。今こそ、観光を“人間中心の成長モデル”として再構築する時である。
