新しい観光モデルを構築し
良質な京都ファンの創出を
現状、外国人観光客数は右肩上がりで推移している。だが、この動きが永続する保証はない。そうした中長期の未来を見据え、良質な日本ファンを一人でも多く育てようとするベンチャー企業がある。東京・渋谷区に拠点を置くエクスペリサスだ。
同社では、欧米の富裕層を中心に大手の旅行代理店では成しえない、京都の社寺の夜間拝観などの特別体験ツアーなどを提供している。
社長の丸山智義さんはこう語る。
「欧米の富裕層の日本への興味・関心は極めて高く、海外の富裕層向けの旅行代理店からの問い合わせは、一貫して増え続けており、売り上げもコロナ禍以前の水準を大きく上回り過去最高を見込んでいます。その中でも京都は圧倒的な人気を誇っています」
同社が実施するアンケート調査によると、日本訪問が「初めて」という欧米の富裕層は多く、丸山さんはこれからも多くの観光客が来日するとみる一方で、こうも言う。
「真に重要なことは、需要と供給が一致する〝定常状態〟以降も見据え、『持続可能な観光モデル』をいかに構築していくかです。日本の人口減少は避けられません。つまり、日本の観光地を日本人だけで支えるという発想から、世界80億人、しかも、日本をリスペクトするコアファンで支えていくという発想に転換していくことが必要なのです。
また、日本は、チープではないが、リーズナブルな国という印象を持たれています。日本の持っている観光資源や食文化、ホスピタリティーをいかにお金に換え、バリュアブルなものにしていくかも重要でしょう」
前出の中井さんもこう指摘する。
「観光客とは、その地域の姿を映し出す〝鏡〟のような存在です。大量消費を前提に、安かろう悪かろうのサービスを提供すれば、そうした観光客が集まるのは当然の結果です。より質の高い観光客を望むのであれば、迎える側の意識や姿勢などを変えていく必要があります」
梅棹忠夫も『京都の精神』の中で「観光というものは、大衆化すればするほど破壊がおこりやすい。(中略)観光客をむかえる側の姿勢になにかたいへんぐあいのわるい点がある」と指摘している。観光の光と影を鋭く捉えた現代にも通ずる視点だ。
京都には、世界中の人々を惹きつける社寺や景勝地が多い。受け入れ方次第で、京都の可能性はまだまだ広がる余地がある。そのためには、慶應義塾大学教授の土居丈朗さんが44頁で指摘するように、京都市は「市民生活の改善」に特化した財政支出を行うことも重要だ。市民が満足感の高い日常生活を送れることは、受け入れ側一人ひとりのモチベーションアップに欠かせないからだ。
さらに、自戒を込めてだが、メディアが京都の状況を〝観光公害〟と報じることはたやすいが、状況をただ報じるだけでは、問題解決にはならない。大事なことは未来を見据え、持続可能なモデルを行政や市民、経済界、社寺などが一体となってつくりあげていくこと、そのために必要なことを共に考えていくことだ。
京都の観光は間違いなく転換点にある。この荒波を乗り越えられるか否かが、持続可能な新しい観光モデルを構築できるかどうかの分水嶺となる。
