2025年12月14日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年12月2日

 最大のポイントは端的に、ゼレンスキー大統領自身の関与の有無である。

 この7月、政府高官の捜査・起訴を行うNABUとSAPOを、大統領任命の検事総長の隷下に置くことでその独立性を剥奪する法案が可決され、大統領はこれに署名した。この一連の動きに対し、ウクライナ国内では首都キーウのみならず地方においても反対デモが起こり、西側諸国や国際機関も強く反発、その結果、再度独立性ある機関に戻す法案を通じて、この問題は取り敢えず大事に至らず収まっていた。

 ただし当時、NABUなどを大統領の影響下に置こうとするのは、ゼレンスキー大統領が自身に近い人物に対する捜査を回避するためではないか、という疑惑があり、報道などでは当該人物の名前も明らかになっていた。

 そして今回、容疑者として挙げられた人物には、正に当時噂されていた人物、すなわちゼレンスキー大統領のビジネスパートナーであったミンディッチ氏、ゼレンスキー時代のチェルニショフ元副首相、ハルシチェンコ前法相、などが含まれていたのである。そこで、やはり噂は正しかったのではないか、さらにはゼレンスキー自身が関わっていたのではないか、との疑惑が再び浮上するに至った。

ゼレンスキーの進退におよぶ可能性

 本件記事にあるように、NABUは捜査の関連でゼレンスキー大統領に言及しておらず、また起訴を任務とするSAPOも、ゼレンスキー大統領は起訴の対象になっていないと公言しているようだ。また、汚職対策機関の独立性を剥奪する法改正は、世論等の反対を受けて、その後すぐに新たな法律によって事実上撤回されている(撤回されたからこそ、今回のような捜査・起訴に至った)。

 さらに、ロシアとの戦争状態で戒厳令下にある今日、大統領の進退問題にまで発展させることは、単に戒厳令下で大統領選挙が行えないというだけでなく、政治的にも大変な混乱を招くことになる。

 以上勘案すれば、本件についてはNABUによる徹底した捜査や適正な裁判が行われる限りにおいて、大統領の進退の問題にまで発展する可能性は低いと思われる。ただし、徹底した捜査に疑問が付されるようなことになれば、この限りではなくなるだろう。その時は、7月に反旗を翻したウクライナ国民が再び立ち上がることになる。

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