2025年12月11日(木)

令和の京都地図

2025年12月10日

立ちはだかる特殊事情と
過去の財政の見通しの甘さ

 このように、持続可能な財政運営の観点からはさらなる検証と恒久的な施策が必要である。

 京都市の財政状況が悪化した要因の一つに、過大なインフラ投資が挙げられる。地下鉄は、かつて「政令指定都市」のステイタスシンボル的存在だった。京都市は制度発足からの政令市だが、その意識の強さからか市営の路面電車が残っていたにもかかわらず、市営地下鉄烏丸線を建設し始め、さらに東西線の建設にも踏み切った。そのために多額の借金も負った。しかも、1997年に完成した東西線は、二条城付近に埋蔵文化財が見つかったことなども影響し、当初想定していた2450億円の総工費が約5500億円まで増加した。

 もちろん、昨今のインバウンド需要を踏まえると、地下鉄がムダだとは一概に言い切れない面もあるが、地下鉄は沿線近隣のエリアしか交通の利便性が高まらないのに対し、バスは路線網を広げることでその利便性が高まり、地域的波及が広くなる。バスの利便性向上は、市民に恩恵が及ぶはずである。しかし、過去のインフラ建設の借金返済が続いており、他都市に比べて計画性に乏しい財政運営によって思うようにそれができていない。そう評価せざるを得ない。

 目下、京都市内は外国人観光客で混雑して、オーバーツーリズム(OT)の懸念が高まっている。そして、住民がバスなどの公共交通機関を十分利用できなくなっているという状況も発生している。輸送力増強が求められているが、限られた財源の中、バスの拡充や運転手不足解消にも十分に手が付けられていない状況だ。バスの減便も実施している。

 加えて、景観や文化財を保護するために、他の都市に比べて道路を拡幅することも、京都では難しい。インバウンド需要におけるメリットは税収増など財源確保のために有効活用すべきだが、OTにより住民生活にしわ寄せが及んでいる点に関しては根本的に解決しなければならない。多額の市債を発行して開業した地下鉄では、その問題解決には力不足であることは否めない。

構造的な問題を乗り越え
求められる健全な財政運営

 京都市は来年3月、宿泊税の引き上げを予定している。世界的潮流でもありOT対策の一つにはなるだろう。ただ、筆者はもろ手を挙げて賛成とはいえない。市民以外から税金を徴収する宿泊税は、「代表なくして課税なし」という民主主義の基本から逸脱し、経済学的にも受益と負担が乖離して望ましくないからだ。

 しかし、他の手だてがなく、OTにより住民生活にしわ寄せが及んでいる今、宿泊税の引き上げは一手段としてやむを得ない。高い宿泊税を払ってでも行きたいと思えるまちづくりをする方が、根本的な解決につながるからだ。

 ここで注意したいのは、宿泊税は、様々な公的支出に利用できる「普通税」ではなく、使途が限定された「目的税」という点である。京都市では、国際文化観光都市としての魅力を高め、及び観光の振興を図る施策に要する費用に充てることと定めている。宿泊税収を、直ちに住民サービスの向上のために使えるわけではない。まずは、宿泊税収をOT対策に充てて、住民の不便解消から始めるべきだろう。そうすることで、間接的ながら、市民生活の質の向上に資することになる。


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