トランプは中国“側”に
その後、日本政府は対応に追われたが、発言を撤回するわけにもいかず難しい状況にあった。そのような中、米側からの要請で、25日に高市・トランプの電話首脳会談が行われた。この時、米国の支援により日中関係の事態打開が可能なのではと日本政府の中では期待する向きもあったはずである。
何しろ、日本政府は巨額の対米投資を約束し、直近の大統領訪日時には礼を尽くしてもてなしたのだから、高市首相とトランプ大統領の間に良好な関係が形成されたはずであった。同盟国米国の助けが必要な今こそと考えたとしても罰はあたらないだろう。
ところが、今回の日米首脳電話会談の中身は、そのような日本側の期待を真っ向から裏切るものであった。ウオールストリートジャーナル紙によれば、この電話会談において、トランプ大統領は高市首相に、台湾問題で中国を刺激しないよう諫めたというのである。
実は、この日米電話首脳会談の数時間前、トランプ大統領は習近平国家主席と米中電話首脳会談を行っている。習主席は具体的に台湾問題に関して日本に圧力をかけるよう要請するようなことはなかったものの、台湾に対する中国の立場を改めて明確化すると共に、米中が第二次世界大戦において共に日本と戦ったことを想起させたという。
この報道が事実だとすれば、日本政府にとっては由々しき事態といえる。この日中対立時に、同盟国日本の肩を持ってくれると期待していた米国政府が、あろうことか中国の意図を汲んで、日本を牽制したということになる。トランプは一連の関税問題を通して中国の強さと米国経済における重要性を理解した。そしていまや米中貿易交渉は山場を迎えている。改善しつつある米中関係を台湾問題で邪魔されたくないはずである。
このような状況に、日本政府が知らないところで米中が接近するという半世紀以上前の「朝海の悪夢」がよぎった関係者もいた。当時、米国は中華人民共和国と対立関係にあり、米国は日本が巨大な共産主義の隣国へ接近するのを嫌っていた。そのため米国政府に忖度する日本政府は、北京政府と距離を置いてきていた。
ところが日本政府の知らぬ間に米中の和解は進行し、1971年にニクソン大統領が突如として近々北京訪問予定と発表した。これを日本政府が知らされたのは、発表の直前であった。
駐米大使を務めたこともある大物外交官の朝海浩一郎氏が、当時起こりうる日本外交における最大の悪夢として挙げていたのが、米中が日本政府のあずかり知らぬところで手を結ぶことであったが、その悪夢がまさにニクソンショックという形で現実となったのである。米国と中国という巨大大陸国家の狭間に存在する日本にとっては、知らぬ間に日本の頭越しに二大国が手を結ぶというのは何としても避けたい事態であるのは今も変わらない。
MAGA派の立場から変わる
今回の一件もその予兆はあった。11月10日放送のFox Newsのローラ・イングラムによる大統領インタビューの番組内のことである。
保守の論客でありトランプ支持で知られるイングラムは、インタビューの中で高市発言に触れて、「あなたが良くご存じの日本の新首相高市氏が、台湾情勢を極めて深刻と表現し、中国の台湾へのいかなる動きも日本の国家存亡の危機と見なすかもしれないと述べました。さらにひどいことに、本日、中国の外交官が日本の首相である彼女の首をはねるべきとSNS上で述べたのです」と前置きしたうえで、「中国の人々は我々の友人とは言えませんよね」と質問した。米国の同盟国の首相を斬首すると外交官が発言するような国とは友人関係ではいられないことを確認する質問であった。これは日本などの同盟国と組んで対中強硬で行こうというMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大にする運動に賛同する人々)派の主張にトランプの考えが沿ったものであることを確認しようとした質問だといえよう。
ところが、トランプは予想に反して「同盟国の多くも友達じゃないんだよ、ローラ。同盟国は中国以上に貿易で我々を利用してきた」と、暗に同盟国である日本を非難し、中国の肩をもったのである。そして「見てくれ、私は習主席とも中国とも大変良好な関係を築いている」と念押しした。これを視聴していた駐米日本大使館関係者や日本政府関係者がいたとすれば、日本に対する梯子が外されつつあるのを目にして暗澹たる気持ちになったはずである。
