基準範囲と基準値の違い
健診と臨床の違い
メディアでも医療現場でも何気なく使われている基準値という言葉。実はこれが指すものはふたつある。
ひとつは健診医がA判定(正常)やD判定(要治療)といった判定を下すための「健診判定値」。もうひとつは一般病院で臨床医が病気かどうかを判断するための「疾病判断値」である。本来、基準値とは疾病判断値を指すが、健診判定値も疾病判断値に基づいて作られているため混同されやすい。
収縮期血圧を例にとった図を見てほしい。5人の健康な人AさんからEさん、それぞれの血圧の値は測定するたびに異なる。5人とも異常はないが、体調や過ごし方によって様々な値を示すものだからだ。基準範囲は、健康な人たちの「正常範囲とみなせる測定値の振れ幅」の広がりを示す。
基準値が、いわば病気の人のデータからつくられた物差しであるのに対し、基準範囲は健康な人のデータから作った物差しなのだ。健康な人が多い健診の判定値は、健康な人の物差し(基準範囲)で設定しようとドック学会は提案する。2つの物差しは重複する範囲があるので混乱しやすいが、重複幅が狭ければ、どちらの物差しを使っても状況はそう変わらない。
具体的に説明しよう。図のDさんの血圧は130から145の間で変動している。現行の基準値140に基づけば、B判定(要注意)になったりA判定になったりする。基準範囲147に基づけば常にA判定。違いがあるように見えるが、B判定は生活指導だから投薬はない。
しかし、疾病判断値と健診判定値が大きくかけ離れている場合は問題だ。
仮にDさんのLDLコレステロール値が176mg/dlだとする。現行では健診判定値も疾病判断値も140だから、生活指導では済まずに投薬となっている可能性が高い。しかし、健診判定値が基準範囲に基づき178に改められると、176はA判定で、投薬も生活指導も受けない。