2024年12月6日(金)

Wedge REPORT

2014年7月3日

「健康の基準が緩和」「ダマされていた」「病人を量産」……。週刊誌でこんな見出しが躍った健康基準値騒動。その内幕はコレステロールをめぐる医学界の根深い対立だった。

 「本当に薬を飲む必要がありますか」

 東京都板橋区内の内科クリニックでは最近、このような問い合わせが増えたという。「健康診断(健診)の基準値が変わるというドック学会の勇み足をマスコミが騒ぎたてただけ。治療や管理の基準値とは違うと説明しています」。同クリニックに20年近く勤務する医師の答えは冷ややかだ。

 発端は4月4日の日本人間ドック学会の発表に遡る。「新たな健診の基本検査の基準範囲」と題した報告書。健康保険組合連合会(健保連)との共同研究事業として、約150万人の人間ドック健診受診者から約1万人の「超健康人」を絞り込み、その検査値の95%が収まる「基準範囲」を発表した。

 臨床系の専門学会が定めてきたこれまでの基準値と比較すると緩めの数値が目立った。たとえば日本高血圧学会の指針では収縮期血圧(血圧測定値の上の方)は140mmHg以上が高血圧だが、基準範囲の上限は147。「健康基準 血圧147まで緩和」(産経新聞)などと全国紙が一斉に報じた。

 これに対し、専門学会は反発。日本動脈硬化学会は「ドック学会の基準範囲は日本国民の健康に悪影響を及ぼしかねない危険なもの」との見解を公表した。ドック学会は5月1日に記者を集め、「報道は誤報。緩和とは言っていない」と沈静化に努めたが、同21日には日本医師会まで「多くの国民に誤解を与え拙速だ」と発表するなど混乱は収まっていない。

 取材を進めると、この騒動の根幹に「健診」と「臨床」の根深い対立構造があることが見えてきた。


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