Wedge REPORT

2014年7月3日

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 DさんのLDLが180に上がるとどうなるか。疾病判断値は140のままなので、40も下げるはめになり、生活指導を飛ばして内服指示となるだろう。つまり、健診判定値と疾病判断値との乖離が大きいと運用に無理が生じる。ここで浮かぶのは、基準値と基準範囲のいずれかが不適切なのではないかという疑惑である。

 動脈硬化学会は、脳梗塞や心筋梗塞等の疾患が生じるリスクを追った確たるエビデンスに基づいて基準値を設定していると主張する。しかし、同学会が定義する境界域高LDLコレステロール血症は120から。ドック受診者150万人の実に48%が120以上だというから、健康人をリスク有りとして拾い過ぎている可能性がある。

 ドック学会が突きたかったのは、まさにこのコレステロール値における乖離なのではないか。報告書にも「特に学会基準とかけ離れたのはLDLコレステロール」とある。調査委員会の学術委員長である山門實・三井記念病院特任顧問は小誌のインタビューにこう答えた。

 「今回の基準範囲のデータから、LDLは、男女差、年齢差があるということが従来よりさらに明確になった。だから、専門学会としてもう一度考えてほしいということ」

 さらに山門氏は、男女差、年齢差を除いたとしても、現行の基準値(疾病判断値)が厳しすぎると感じているのではないかという小誌記者の質問に対して、否定はしなかった。ドック学会は、基準値と基準範囲は異なると再三説明しているが、本音では、大きな乖離があるLDLの基準値再考を求めているのである。

 実は、4年前、似たようなコレステロール騒動があった。日本脂質栄養学会が「長寿のためのコレステロールガイドライン」を発表。「LDLが高いと総死亡率は低い。だから高い方が長生き」と明記したため、動脈硬化学会は「科学的根拠がなく、必要な患者の治療を否定するもの」と猛反発。日医も「明らかに間違い」と指摘し、動脈硬化学会の権威は揺るがなかった。

 山門氏は脂質栄養学会のガイドライン策定委員会に名を連ねており、今回の騒動で週刊誌に積極的な発言をしている大櫛陽一・東海大学名誉教授は副編集責任者の立場にあった。

 山門氏は、「LDLが高いほど良いという立場は取らないが、男女差、年齢差を重視すべきという考えはこの頃から一貫している」と言う。今回の健康基準値騒動は、当時から連なる因縁の対立とも言えるのだ。

健診医と臨床医の確執
ドック学会の“奇襲”作戦

 「健診医は、健康な人相手の問診と保健指導だけが仕事ですから退屈。ただ、当直もオンコールも急患もない。訴訟リスクもなくて臨床医と同じかそれ以上の給料をもらえるのは美味しい。高い専門性も必要ありませんし」

 民間病院に勤務する外科医は健診医の仕事をこのように表現する。

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