2025年12月8日(月)

お花畑の農業論にモノ申す

2025年12月8日

命を繋ぐ農業

 農業とは、本来「いのちをつくる仕事」である。食べ物をつくるという行為は、人の命を支えるだけでなく、未来をつくる基盤でもある。伯父は津軽の自然の中で農作業を通して生き物の死にも直面し、優しい心をはぐくんだのだと思う。

 しかし今の日本では、残念ながらその尊さが十分に理解されているとは言い難い。戦後の農業は「産業の一つ」として扱われる側面が強くなり、その間、農村は過疎化し、食料自給率は低下した。こうした社会構造の変化もあり、農業の価値が十分に共有されているとは言い切れない状況にある。

 筆者は全国を回り、普及指導員や農家の方々と話す中で思う。農業は「経済活動」であると同時に「命を繋ぐ大事な活動」であると。

 津軽の農村で育った伯父も、東京郊外の多摩川沿いで育った筆者も、自然の中で命の価値を学んだ。うさぎの世話を怠った弟を叱ったように、「命に向き合う姿勢」は農業を支える重要な感性である。そして今その感覚こそが日本社会から薄れつつある。

 都会の子供たちを中心に農作業体験や動物の飼育経験は、豊かな心をはぐくむために重要だ。しかし、都市部では動物の飼育や農作業に触れる機会は年々減っている。家庭だけの努力では限界があるため、自治体や学校が積極的に体験の場をつくり、子供たちが命の大切さを学べる環境を整えることが欠かせない。

 地味な取り組みではあるが、このような機会によって、将来を担う子供たちや若者が命の大切さを学び、平和を大切にできる感性を育むことにつながるのではないか。AIが進化し、効率化が進む時代だからこそ、農業が持つ「命の哲学」は今後さらに重要になる。

 21歳で散った一人の若者の静かな声は、今も私たちの背中をそっと押し続けていると感じるのだ。農業と平和には、実は強い絆がある。どちらも、私たちの幸せに欠かすことのできない重要な基盤だ。今こそ、その重要性を見つめ直す時期に来ているのではないだろうか。

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