2026年2月20日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年12月15日

 そもそも、世界を一国が監督するという考え方自体が時代遅れだ。未来の問題は、二極対立ではなく多極の複雑性である。この現実に対して、トランプがうまく対応できていないのは明らかだ。

 進歩派の外交政策学者ヴァン・ジャクソン(「The Rivalry Peril」の著者)は「脅威を与えていない国に侵攻し、世界規模の対テロ戦争を展開しなければ覇権の維持ができないのであれば、米国は明らかに衰退している」と言う。衰退国家による攻撃的行動が如何に危険かを示す例は歴史に満ちている。16世紀スペインの軍事的狂信、末期オスマン帝国の民族主義の台頭、両大戦間の英国の持続不能な帝国維持の試みだ。

 トランプの軍事的脅しや関税政策の多くは、実際は国内向け効果を狙ったものだ(フェンタニルや税収のための関税の例)。トランプ政権下の米国は中国に似つつある。すなわち、政権安定に執着し、人々を支配するためには手段をいとわず、世界のリーダーシップには主たる関心を示さず、民族主義的な熱狂の中で独裁的指導者の個人崇拝を築く国家へと向かっている。

 トランプは、選挙戦での過激な反中言辞にもかかわらず、実際には「対中タカ派」ではない。彼はしばしば習近平を称賛する。

 一方、トランプ政権は関税乱発、同盟軽視、国際機関離脱など、自ら米主導の秩序を破壊する方向に動いている。南アでの20カ国・地域(G20)首脳会議につき、トランプは数カ月前から欠席を宣言し、最後は突然にG20会議を全面ボイコットすると発表した。

 中国はもっと長期的で洗練されたゲームをしている。習近平が派遣した李強は、多極化する世界の課題と可能性について主要経済国と議論する準備を整えている。

 米国は、台頭国と協力して新秩序を築くのか、支配に固執するのか、選択に迫られている。トランプは後者を選んでいる。中国は前者を求めているように見える。歴史を見れば、前者の道が平和と繁栄につながり、後者は崩壊への道である。

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中国は「現状維持国」ではない

 上記論説の議論の大筋は、その通りだろう。残念ながら、トランプには、きちっとした歴史観や大局観などない。

 先般のG20南ア首脳会議のボイコットはそれを象徴する。トランプにそのセンスがなければ、もっと閣僚達がトランプを引っ張って行かねばならないのだが、トランプの周りにはおべっか使いしかいない。もっと各国と関与し、その中での主張と妥協を通じて、取引をしていくべきなのだが、トランプ政権の結末が心配になる。

 ポルグリーンの論説で違和感があるとすれば、中国は現状維持国であるとする「挑発的な論文」に大きく影響されていることである。その論文とは、8月1日付のInternational Security誌(その分野では権威ある専門誌)に掲載されたD. カンら3人の学者による「中国は何を欲するのか」との論文である。

 この論文は、些かナイーブな中国論のように思える。第一に、それは中国の発表や資料などを分析した結果だというが、そのような方法を取ればそういう結論になることは分かり切ったことである。

 中国が関与した文書や声明等は民主主義や国際法の順守など美しい記述に満ちている。しかし、問題は中国の言うこととその行動には常に乖離があることだ。


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