2025年12月16日(火)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年12月16日

 独占を強める今回の買収に、多くの人々が懸念を表明した。俳優で活動家のジェーン・フォンダは、「エンターテインメント業界全体を脅かす…(中略)…壊滅的なビジネス取引」と批判した。僅かな企業による業界の支配は、ハリウッドの職を減らし、労働者の交渉力を低下させ、ひいては表現の自由を定めた合衆国憲法修正第一条を脅かすというのである。

 マサチューセッツ州選出の連邦上院議員(民主党)のエリザベス・ウォーレンは、この買収を「独占禁止法の悪夢」と呼び、独占が進めば選択肢が減り、価格は上がって国民にとって良くないと反対を表明した。Netflixが普及を図っていた当初は一月7ドル99セントだったのが、いまや倍以上に値上がりしており、この買収が成功して、消費者の選択肢が減れば、もっと値上がりするだろうと批判した。

 そのような中、トランプ大統領は、市場のシェアが大きいことが問題になりうると、Netflixによる買収にくぎを刺すような発言をした。ウォーレン議員と言えば民主党の中でも左派に属し、トランプ大統領とは対極にある人物でこれまで何度も対立してきた。そのトランプが、寡占は良くないとしてウォーレンと同じようなことを言ったのである。

 ただ、よく見ると、これは単純な「正義」の話でもなさそうである。ではトランプの狙いはどこにあるのだろう。

パラマウントの敵対的買収にトランプの影

 この寡占を生む買収計画に反対したのは、活動家や議員だけではなかった。Netflixとの合意に臍をかんだパラマウント・スカイダンスのデヴィッド・エリソン最高経営責任者(CEO)もその一人である。彼の父親で、ソフトウエアの巨大会社オラクルの共同創業者であるラリー・エリソンがトランプ大統領に直接電話して、Netflixによる買収では、競争を阻害すると伝えたのである。

 ラリー・エリソンは、トランプ大統領の再選に向けて巨額の献金をした支持者である。困りごとがあって大統領に電話しても皆がつないでもらえるわけではなく、このエピソードからもホワイトハウスといかに太いつながりを持っているかがわかる。

 Netflixの合併に対する反対の声が広がる中、パラマウント・スカイダンスは、8日、一株30ドルという敵対的買収を実施するという形で名乗りを上げた。それはCNNなどのストリーミング以外の部分も含めて全体を買収しようというもので、パラマウント社の提案の方が、Netflixの買収案に比べて多くの現金がワーナー社の株主の手に渡ることになるものであった。

 パラマウント・スカイダンスは、ハリウッドの老舗の一つであるパラマウントと、デヴィッド・エリソンによって設立されたスカイダンス・メディアが、この夏に合併して誕生した企業である。この合併に際して、合併を連邦政府に認めさせるために、パラマウント傘下のCBSの番組で、トランプ大統領に批判的なスティーブン・コルベア氏が司会を務めていた人気トーク番組「ザ・レイト・ショー」の打ち切りを発表するなど、CBSテレビの保守化が進められた。デヴィッドの父親がトランプの有力支持者であることを考え合わせると、かなりトランプに影響力をもつ会社だということができる。

 トランプの影がちらつくのはそこだけではない。パラマウント社による買収に必要な巨額の資金の出所をみると、トランプの娘婿クシュナーの投資会社や、サウジアラビアやアラブ首長国連邦の政府系ファンドが名を連ねているのがわかる。


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