“トータルフットボール”の伝統・オランダ
日本が1試合目に対戦するオランダは人口1800万人と決して大国ではないが、チャレンジ精神が彼らのサッカーを育んできた。1974年の西ドイツW杯で英雄ヨハン・クライフが掲げた”トータルフットボール”に代表される「美しく勝つ」伝統がウイングなどを生かした基本スタイルとして受け継がれてはいる。ここ数大会は自分たちが最強国ではないことを自覚した上で、悲願の初優勝を果たすべく、状況に応じた手堅い戦い方も取り入れている。
前回のカタールW杯でベスト8。準々決勝ではのちに優勝するアルゼンチンに最後はPK戦で敗れたが、好勝負を演じた。
現在は元オランダ代表の名ディフェンダーであるロナルド・クーマン監督のもと安定した戦いを披露している。中盤の軸にはフレンキー・デ・ヨング(バルセロナ)を据え、ボール保持を基盤としながら、サイド攻撃やクロスからのフィニッシュにも強みを持つ。
カタール大会で評価を高めたコーディ・ガクポ(リバプール)の得点力に加え、前線を牽引するメンフィス・デパイ(コリンチャンス)、ゴール前で抜群の決定力を誇るドニエル・マレン(アストン・ヴィラ)と、警戒すべきアタッカーは多い。
最終ラインではセンターバックのフィルジル・ファン・ダイク(リバプール)とマタイス・デ・リフト(マンチェスター・ユナイテッド)が、高い対人能力と的確な判断力で守備を統率し、攻撃的なチームを後方から支える。日本にとって最大のポイントは、デ・ヨングに自由を与えないことだ。中盤でのプレッシングとボール奪取をどこまで徹底できるかが、試合の流れを大きく左右する。
欧州各国とも交流があり実直なチュニジア
第2戦はメキシコのモンテレイでチュニジアと対戦する。FIFAランキングは40位と突出してはいないが、アフリカ予選を9勝1分、無失点で突破した守備組織の完成度は特筆に値する。ただし、堅守一辺倒ではない。中盤の核であるエリス・スキリ(フランクフルト)を起点にしたサイドチェンジや、ハンニバル(バーンリー)の鋭い縦パスなど、ダイナミックかつ多様な攻撃を備えている。
アフリカというと自由奔放なイメージを抱かれやすいが、地中海に面しており、歴史的に欧州各国との交流も盛んだったチュニジアは実直さがサッカーのスタイルにも表れやすい。戦術的な共通理解だけでなく、チャンスと見たときに、何人もの選手が同時に前を向いて走ったり、ピンチには一致団結して自分たちのゴールを守り抜いたり、アフリカ勢のみならず、欧州の列強国などに比べても、集団性が目を引くチームだ。
オランダ戦と比べれば、日本がボールを保持する時間は長くなる展開が想定されるが、その分、背後のリスク管理が重要になる。スキリやハンニバル、キャプテンのフェルジャニ・サッシ(アル・ガラファ)から一気にフィラス・シワト(クラブ・アフリカン)ら前線の屈強なアタッカーへボールが渡れば、一瞬で局面を打開される危険がある。加えて、セットプレーの得点力も高いだけに、安易にチャンスを与えないことはもちろん、与えてしまった場面での粘り強さと対応力も試されることになる。
