2025年12月22日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年12月22日

 クレムリンの目的は誠意のある交渉ではなく、トランプやハンガリーのオルバーン首相らにロシアは協力的だと見せかけつつ、外交上の失敗の責任を米国がウクライナに負わせるように仕向けることである。

 しかし、プーチンの戦略にも限界はある。トランプは既にロシアに歯向かう可能性があることを示している。

 今年になって、米国はウクライナに対しロシア国内への長距離攻撃を許可し、二大石油企業に新たな制裁を課し、インドにロシア産原油の購入削減を迫った。またルビオ国務長官は(これまでのところ)ウクライナとの情報共有を維持し、ロシアの石油インフラへの深部攻撃を容認し続けるために十分な措置を講じてきた。

 プーチンの戦略のもう一つの限界は、トランプ氏がもはやウクライナの生命線を握っていないことだ。米国は武器を売却し、情報を提供しているが、今やウクライナの戦争遂行に全面的に資金提供しているのは欧州諸国だ。欧州の首脳陣はウクライナを資金不足のために敗北させはしないと明言している。

 したがって戦争は、再び交渉が失敗に終わり、冬が訪れ、おそらく春になっても続くことになるだろう。両陣営の核心的な目的が根本的に相容れない場合には、いかなる外部からの圧力や外交もその溝を埋めることはできない。平和はいずれ訪れるだろうが、それは、戦場と物質的な状況によりそうせざるを得なくなる場合に限られる。

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さらに必要な2つの視点

 イアン・ブレマーによる本件論説は正鵠を得た分析を示しているが、2点付け加えたい。

 一つは、トランプによる「仲介」は、「早く、安く」だけではなく経済的利益を得ることを重要な目的の一つとしていることだ。11月19日にリークされた「28項目提案」には、ロシア中銀の凍結資産の過半を米露間ビジネスのための投資に利用する案が含まれているが、これはトランプ政権がこの和平交渉を通じて経済的利益を得ることを重要な目的の一つとしていることを示している。

 もう一つは、トランプが領土主権という問題に対し余りに無頓着であることだ。12月8日、ゼレンスキー大統領は欧州北大西洋条約機構(NATO)主要国との協議のあとに、領土主権を譲り渡すことを改めて拒否する姿勢を明確にした。これは直近の米国案が、ロシアに占領されたウクライナ領土の法的な意味でのロシアへの譲渡を含んでいることを示している。


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