2025年12月22日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年12月22日

 「力」で取り戻すことができない現実があることと、その状態に法的正当性を与えることは全く異なる。「仲介」者であるならば、その違いを踏まえた上で、何らかの妥協点を見出す努力を払うべきであるが、そのような形跡は見られない。

 以上の2点をも併せ考えれば、トランプは、国際法の原則を、米国が得られる経済的利益と引き換えに、何のためらいもなく破ろうとしていることになる。これは戦後の歴史に大きな汚点を残す先例となり得るもので、日本としても他人事ではない。

 ブレマー氏が言うように、現在進行中の「和平交渉」は実を結ばない可能性が高いと思われるが、さらに言えば、以上のような発想に立つ米国を「仲介者」とする和平交渉であれば、むしろ成功しない方が良いかも知れない。

カギは欧州の軍事支援

 和平交渉は、最終的には戦場での優劣が決定的な意味をもつ。今なすべきことは、戦況をウクライナ優勢に転じさせるための軍事支援と対露制裁の強化であり、もって公正な停戦ないし終戦のための環境を作り出すことである。

 このような契機を作り出すことができるのは欧州しかない。欧州こそが、より抜本的なウクライナ支援に乗り出す決断を下さなければならない。

 欧州がウクライナに対する軍事支援を一層強化し、戦況をウクライナ側に優位な方向に変えていくことは、「強い側につく」方針のトランプをしてウクライナ支援と対露制裁に踏み込ませる契機にもなるだろう。

 欧州はすでに、東はバルト三国から西はアイルランドに至るまで、ドローンによる領空侵犯、海底ケーブルの切断、海上航行阻止、放火、爆発など様々な形でいわゆるハイブリッド戦を仕掛けられている。これは「ウクライナ後」を念頭に、ロシアがNATOによる軍事的対処の内容とそのスピードを推し量り、条約第5条(集団防衛)の信頼性を棄損せしめようとする行為である可能性が高い。

 欧州が実質的な軍事支援を適時に行うことができず、かつトランプ政権の基本方針が変わることがなければ、戦況はウクライナ劣勢の状態でさらに長期化し、非常にゆっくりとではあるがロシアによる領土拡大が続くことになるだろう。その先にあるのは、ウクライナ戦争終結の5~10年後になるかも知れないが、NATO諸国への侵攻可能な程度に軍事力を回復したロシア軍に直面する欧州、ということになるだろう。

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