第二次世界大戦末期には、戦後の新たな国際秩序樹立のために三大指導者が協議した。ルーズベルトやチャーチル、スターリンの間の交渉は、戦争の実体験と夫々明確な価値観を基礎にした大国の協議だった。冷戦期の米ソ関係は、核戦争回避という共通の価値判断が基礎にあった。
今の米中ロの指導者には、そのような深い価値観や、いわんや共通した価値観は見られない。それどころか、プーチンはウクライナ戦争で、トランプは一方的な関税措置などで、習近平は膨張的な政治、経済政策で、戦後の国際秩序に挑戦している。これらの三人に奇妙に共通するのは、修正主義だ。
今の国際社会には良い意味での緊張感や凄さはない。世界には、良い意味での、啓蒙された「対立軸」が必要ではないか。それは、やはり民主主義ではないか。
バイデン時代には、民主主義の強調は、グローバル・サウスを中ロ側に追いやることになり兼ねないと批判された。しかし、過度の内政干渉をする民主主義ではなく、もっと穏やかだがきちっとした民主主義論が必要だろう。
ラックマンが「中国では政府批判や混乱の兆しは稀だが、探せばそうした兆候は存在する。...習近平は政治・軍事の指導者を異常な速度で粛清している。これは、習近平自身の猜疑心の表れか、腐敗の根強さを示している」と指摘するのは、興味深い。ここ一カ月間の習近平の言動を見ると、焦燥感、不安感があるように見える。
高市首相の所謂台湾答弁への対応を見ても、過剰反応か、異常な感じを受ける。在京中国大使や大使館が突出して国連憲章敵国条項やサンフランシスコ条約まで持ち出すのは、普通ではない。習近平を忖度して増幅しているのか、外交部や大使館への責任追及を恐れているのか。それは、国際的には中国の異質性を際立たせるだけだろう。
軋む日米関係
今年は、米国の同盟関係が軋んだ年でもあった。米欧はトランプ関税とウクライナ戦争で軋んだ。日米は、トランプ関税で軋み、秋以降は米中関係の絡みで軋むリスクが指摘されている。
トランプ政策は同盟国等には圧迫的で、中ロには弱い。高市首相の台湾に係る国会答弁と中国の反発の余波が続いている。12月6日、沖縄東方の公海で、自衛隊機が中国の空母「遼寧」から飛び立った戦闘機からレーダー照射を受けた。危険極まりない。
また、高市答弁への中国の反発との関連で、12月7日付 フィナンシャル・タイムズは「日中対立につき日本はトランプ政権の沈黙に不満」と題する記事を掲載している。トランプが米中貿易合意維持のために中国に宥和する事はありうる。来年は春秋と二回の米中首脳会談が予定され、米中関係を睨んで日米関係を緊密にしておく必要がある。
