こうした発言について、中国外務省の毛寧報道官は8月18日、「国家間の対立と緊張を高めようとするものだ」と批判。「南シナ海などの状況は平穏である。台湾問題は中国の国内問題である。『一つの中国』という考え方は、国際社会に受け入れられた基本原則だ」と反論した。
訪中を一度キャンセル
ワーデフール外相が日本で行った発言は、中国政府の逆鱗に触れた。ワーデフール外相は25年10月に訪中する予定だったが、出発直前にキャンセルされた。ドイツ外務省はその理由を公表しなかったが、ドイツのメディアは「中国政府がワーデフール外相に対して、台湾問題についての発言を撤回するよう求めて来たため、ワーデフール外相は訪中を取りやめた」と報じている。
ワーデフール外相は、「中国はウクライナ戦争をめぐって間接的にロシアを支援している」と不快感も表明していたが、中国政府はこの見解についても公に修正するよう求めた。ドイツ政府にとって、外務大臣の公式見解を撤回・修正することは、発言が間違っていたと認めることになるため、到底できない。
さらに中国は、ワーデフール外相の出発直前に、いくつかのアポイントを取り消した。このため、出発2日前にキャンセルしたのだ。
したがって、ワーデフール外相が約2カ月間の冷却期間を置いて訪中し、王毅氏との会談を実現させたこと自体、ドイツ側にとっては「成果」なのである。台湾やウクライナ戦争をめぐる見解の相違があっても、貿易問題の懸案が山積する中、ドイツ・中国ともに対話のチャンネルを開いておこうと判断したのである。今回の会談は、両国の関係正常化へ向けた第一歩だった。
ワーデフール外相は、重要資源をめぐり中国に大きく依存しているにもかかわらず、へりくだるような態度は見せなかった。中国滞在中にも、台湾問題を武力によって解決しないように要求し、ウクライナ戦争をめぐって影響力を行使して、ロシアの態度を緩和させるよう求めた。彼は「中国とドイツは互いを必要としており、対話を継続するべきだ」という点を強調した。
なお日本のメディアは、「王毅氏は12月8日、ワーデフール外相と北京で会談した際に『ドイツと異なり、日本は戦後80年たった今も侵略の歴史を徹底して反省していない』と批判した」と報じているが、この点についてワーデフール外相はコメントしていない。日本と中国の、台湾有事をめぐる対立にタッチしたくないと判断したためだろう。
重要な友好国日本に対して、「あなたの国は十分に過去について反省していない」と教えを垂れるような態度を取りたくないとも考えたに違いない。ドイツのメディアも、この中国側の日本批判についてはほとんど触れていない。
EUと中国の間の関係は「氷河期」
中国が今回、王毅・ワーデフール会談を成立させた背景には、中国とEUの関係が氷河期にあるため、中国が個別の国と対話を続けようとする意図が感じられる。
EUは中国の対欧貿易黒字が年々増えていることを批判し、欧州企業に対して中国市場へのアクセスを容易にするよう求めている。
さらにEUは24年10月、「中国から欧州に輸出されるバッテリー電気自動車(BEV)は政府の補助金を受けて不当に価格が引き下げられている」と主張して、中国からのBEVに最高35.3%の追加補助金を適用した。EUは太陽光発電モジュールのように、中国からの割安のBEVが欧州市場を席巻することを恐れている。中国側は「EUの追加関税は自由貿易を妨げる措置だ」として撤回や関税率の削減を求めている。
