2025年12月26日(金)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2025年12月26日

 また欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、25年6月16日、カナダで開かれた主要7カ国(G7)の首脳会議で「中国は希土を使った永久磁石について、事実上独占状態にある。中国はこの地位を交渉材料として使うだけではなく、競合国の立場を侵食するための武器としても使っている」と述べ、同国の姿勢を痛烈に批判した。 

 EUのこうした行動と発言は、中国を怒らせた。両者の関係の冷え込みを如実に示したのが、25年7月24日に北京で開かれたEU・中国首脳会談だった。フォン・デア・ライエン委員長は、欧州理事会のアントニオ・コスタ議長とともに北京を訪れ、人民大会堂で習近平国家主席と会談した。

 25年は、EUと中国が外交関係を樹立してから50年目にあたる、重要な節目の年だった。だが両者の間には、半世紀続いた外交関係を祝う雰囲気はなかった。

 そのことは、首脳会談のスケジュールにも表われている。これまでEU・中国間の首脳会談は、ブリュッセルと北京で交互に開かれた。前回は23年にフォン・デア・ライエン委員長が北京を訪れたので、25年には習近平国家主席がブリュッセルを訪れるのが通常の順番だが、習近平氏は欧州へ出張することを拒否した。

 また、フォン・デア・ライエン委員長は当初7月24日から2日間にわたって中国政府関係者と会談を持つことを望んだが、中国側は2日目の日程をキャンセルした。中国政府は、北京空港に到着した際に歓迎式典を行わなかった。

 さらに空港からの送迎でも2人をリムジン(大型乗用車)ではなく大型バスに乗せてホテルや人民大会堂に移動させるなど、冷たく扱った。EUの最高責任者にふさわしい接遇ではない。

 これは中国政府のEUに対する強い不快感の表れだ。フォン・デア・ライエン委員長は習近平氏と率直に議論することを望んでいたが、中国側は拒否した。

マクロン大統領とも個別に会談

 中国がワーデフール外相と会うことに同意したのは、EUの加盟国と個別に話し合うチャンネルを維持するためだ。

 そのことは中国が25年12月3日から3日間にわたり、フランスのマクロン大統領の訪問を受け入れたことにも表れている。習近平国家主席は、フォン・デア・ライエン委員長に比べるとはるかに手厚くマクロン大統領を接遇した。

 マクロン氏は硬軟交えたメッセージを中国に送った。「貿易問題において、欧州と中国は双方を必要としている。しかし中国が貿易不均衡を是正しない場合には、EUは報復措置も辞さない」と伝えたのだ。

 中国は、ドイツやフランスからの訪問者と個別に会い、対応の仕方に差をつけることによって、欧州の分断を目指していると考えることもできる。中国政府は、ドイツやフランスがEUに働きかけて、BEVに対する姿勢を軟化させることも希望しているに違いない。

ドイツと中国の〝関係性〟

 誤解を避けるために付け加えたいのだが、中国の台湾政策を批判したのはワーデフール氏が最初ではない。この見解は、過去の政権も表明してきたものだ。たとえばショルツ前政権が23年7月に公表した「中国戦略」も、台湾問題をめぐって中国に批判的な態度を取っている。

 05年から21年まで首相を務めたメルケル氏は、経済問題を重視したために、中国に対して人権問題を強く批判しなかった。これに対し、ショルツ政権で外相を務めたアンナレーナ・ベアボック氏(緑の党)は、台湾問題や人権問題で中国をあからさまに批判した。

 中国戦略の20ページには「中国共産党の影響力拡大とともに、市民権は後退し、言論や報道の自由は制限されている。少数民族や宗教共同体の文化的アイデンティティーも圧迫されている」と書かれている。「中国は新疆ウイグル自治区とチベットで人権を侵害している他、香港では国際的合意に反して自治権や市民の自由を抑圧している。人権保護団体や市民権を守ろうとする弁護士の活動も困難になっている」と批判した。


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