2026年2月4日(水)

世界を揺さぶるトランプ・パワー

2026年2月4日

左右に揺れる米国で
名門大学は維持できるのか

 そう考えると、関税政策をはじめとしたトランプ政権の政策は、全く別の意味合いを持ってくる。ちなみに、既に政権を離れたイーロン・マスク氏が強く刷り込んでいったこともあり、トランプ政権はAIへの規制には強く反対している。この点を加味するのであれば、次のような全体像を描くことが可能だ。

 まず、先端産業も含めて連邦(国)による大学への補助金は絞り、逆に規制緩和によって民間による技術革新の後押しをする。結果的にAIの技術革新が進み、大卒者向けの知的初級職が少なくなったら、大卒人材はロボット化された製造業などの「新しいブルーカラー」として期待される。

 問題は他ならないトランプ政権そのものが、こうした全体像を描けているのかが怪しいということだ。けれども、ヴァンス副大統領ら次世代を担う保守政治家がこうした構図をしっかり意識して施策を進めるのであれば、それはそれで政策パッケージとして成立しうる。

 一方で、不安なのは民主党の側である。大統領選に敗北したハリス氏は、オバマ=クリントン路線に連なる党内穏健派であるが、その基本姿勢はグローバル経済への最適化である。世界中から知的人材を集めて競争力を追い求めるとともに、その成果の中から最貧困層やマイノリティーへの再分配は行い、社会を安定させるというのが彼らの描く国是である。名門大学はその中心的存在として保護されてきた。

 けれども、製造業が国外流出し、知的労働に関心のない層には米国人が基本的に嫌うサービス業しか残らないのが現実となった。こうしたトレンドに対する強烈な異議申し立てがトランプ主義であった。さらにAIの進化が加速度的に知的初級職の雇用を奪う中では、ハリス氏の路線ではいわゆるZ世代の支持を奪還することは難しい。

 これに対抗する党内左派は、イスラム教徒で社会主義者を自称するゾーラン・マムダニ氏がニューヨーク市長選に勝利して注目されている。

 彼らは若者の雇用に敏感であり、グローバリズムに向ける視線も厳しい。トランプ氏の主張と重なる部分もあるが、例えば雇用危機に関しては欧州連合(EU)の考え方に近く、AI利用への規制も志向する。ロボットを導入して人的な労働力の削減に突っ走るアマゾンなどへも厳しい批判の目を向けている。

 グローバリズムにより知的労働に集約された米国の現状への否定、そして重視されたはずの知的労働の中でも初級職はAIに奪われつつある現状、これが26年を迎えた米国を大きく揺さぶっている。そんな中で、左右に激しく分裂しながら揺れる米国において、先端技術における競争力を維持するには民間活力だけでは足りない。建国以来の歴史が教えるのは、米国の競争力の基盤というのは、やはり名門大学の底力が支えているという事実だ。厳しい環境の中ではあるが、その底力はまだまだ侮ることはできない。

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Wedge 2026年2月号より
世界を揺さぶるトランプ・パワー
世界を揺さぶるトランプ・パワー

1月3日、トランプ大統領は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、ベネズエラに対する攻撃を成功させ、マドゥロ大統領を拘束したと発信し、世界に衝撃を与えた。自らを「平和の使者」と称していたトランプ氏だが、戦火の口火を切った格好だ。トランプ氏にとっては、犯罪者を拘束するための法執行をしたにすぎないという認識なのだろうが、議会の承認を得ていないほか、国際法に違反しているという指摘もある。 独裁者を追放するという帰結と、そのプロセスは別に考えなければならない。そうでなければ、「力による現状変更を容認しない」という、戦後80年かけて世界が営々と築き上げてきた共通認識を崩したロシアを誰も批判できなくなる。 そもそも、トランプ氏は積み上げられてきた「ポリティカル・コレクトネス」を否定し、ルールを決めるのは自分だと言わんばかりの行動をとってきた。まさに「トランプ・パワー」である。 そんなトランプ氏を大統領に再度選んだ、現在の米国の政治経済、外交、そして思想などをつぶさに見ていくと、我々が知っているかつての米国から大きく変貌していることが分かる。 それでも米国が日本にとって重要な同盟国にあることに変わりはない。米国とどう向き合っていくのか。世界だけではなく、日本こそ問われている。


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