決定的となったのは1989年、民主化運動を武力弾圧した天安門事件。共産党への求心力が急速に低下すると、当時の江沢民総書記(国家主席)は屈辱の近代史を前面に出し、被害者ナショナリズムを駆り立てようとした。「愛国教育」の名の下に、抗日戦争での日本の侵略行為を強調するため、各地で抗日戦争記念館が新設、拡充されたのは承知の通りである。
20年が経った今、経済規模で日中は逆転し、中国は20年前とは比べ「大国」として台頭したが、中国共産党の主導する抗日キャンペーンの基本構造は変わらない。
来年9月まで続く反日キャンペーン
共産党・政府は日本という対象をどう利用しようとしたのか。改革開放時に「近代化のモデル」として経済協力支援を受けた日本は90年代半ば頃、「ナショナリズムを盛り上げるための日本」としての存在価値がより重く認識されるようになった。
中国側の強い要望を受け、92年10月に天皇陛下訪中が実現した。日本側はこれで歴史問題に一区切りを付けたいと期待したが、共産党中央が94年8月、「愛国主義教育実施要項」を通達した。当時の日本の駐中国大使は「愛国」が「反日」に転化する事態を危惧し、今後の展開を中国側に聞いたところ、当時の外務次官・唐家璇(後の外相、国務委員、現中日友好協会会長)はこう答えた。
「愛国主義運動は決して排外運動ではない。抗日戦争が引き合いに出されることはあるが、今年は愛国主義運動の年です。夏が終わったらやめます」
つまり「反日」は共産党への求心力を強める国内向けの政治キャンペーンなのである。その中でも習近平の「反日」の声は胡錦濤前総書記に比べれば強いようである。
今回の反日キャンペーンは7月7日の盧溝橋事件77年記念で始まったが、共産党指導部は、昨年末の安倍首相の靖国神社参拝を受け、2月末に、9月3日を「抗日戦勝記念日」に、12月13日を南京事件の「国家哀悼日」に新たにそれぞれ制定した。国家の法定記念日に格上げされた、これらの日にも習近平が登場して演説する可能性が高く、大規模な反日キャンペーンは来年9月3日の抗日戦勝70周年記念のピークまで続けられる見通しだ。この間、同盟国のロシアとは来年の70年記念式典を共同で開催し、韓国なども巻き込もうとしている。
もう世界に2度と馬鹿にされない強国に
習近平は、「中国夢」(チャイナドリーム)キャンペーンに代表されるように国家と共産党への誇りが強く、主権や領土に対して断固たる強硬姿勢で臨んでいる。歴史・尖閣問題で対決する安倍政権に対しては、自分たちの納得する「変化」を先方が見せない限り、妥協することはないだろう。