2026年3月6日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年3月6日

 シンガポールのISEAS-Yusof Ishak研究所のサングレー客員研究員は、「この選挙結果は、有権者は安全保障と経済を(政治改革よりも)優先させたことを示唆している。政治改革は依然として重要だが、しかし、国際情勢がますます混沌とする中、有権者達は安定をより緊急な課題だと考えたのであろう」と述べている。

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本当の「保守派」ではないアヌティン首相

 ここ何年もの間、タイでは国会選挙の度に王党派や親軍派からなる保守派に対抗する勢力が勝利し続けたが、既得権益を失うことを恐れた保守派は、非保守派政権が彼らにとり都合の悪い政治を行おうとすれば軍事クーデターで政権を倒したり、保守派がコントロールする憲法裁判所を利用して解党処分等に処して政権を崩壊させたりする等、あらゆる手を使って権力を維持しようと努めている。

 前回の23年の選挙では王室の権威を弱める不敬罪の見直し、軍部の影響力低下に繋がる徴兵制の見直しを主張する「前進党」が151議席に躍進して第1党になると、憲法裁判所は難癖を付けて「前進党」のピター党首の国会議員資格を停止し、「前進党」も解党処分にする一方で保守派は過去2回、軍事クーデターで失脚させて来た仇敵のタクシン派と取り引きしてタクシン派を首相とする内閣を成立させた。

 昨年の春、カンボジアとの国境紛争が再燃すると、タクシン元首相の娘のペートンタン首相がカンボジアのフンセン元首相との電話会談でタイ国軍を批判した事を理由に失脚させられ、アヌティン氏が「前進党」の後継政党である「人民党」と半年後に選挙を行うと約束して首相に就任し、今回の選挙で同氏が圧勝したわけだが、アヌティン氏は元々タクシン派に所属していた時期もあり、単純に彼を保守派の政治家と見なすのは正しくないだろう。むしろ、権力を求めて動く風見鶏的な政治家であり、現在は保守派に近寄っていると見るべきだ。

 昨年の夏、保守派が今回の保守派圧勝のシナリオを書いた上でペートンタン首相を失脚させたというのは深読みし過ぎだろう。そもそも、ペートンタン首相の失脚の原因となった電話会談のリークはカンボジア側が行ったことは会談記録がフンセン元首相のサイトにアップされているので間違い無く、その時点では想定外の事態であったろう。


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