2026年3月25日(水)

Wedge REPORT

2026年3月25日

根本にある風評加害対策15年間の誤り

 今回の問題は、福島の風評加害対策が15年間にわたって犯し続けた構造的誤りの副産物が露呈した事例とも言える。前述したように、福島は苛烈な「風評加害」に晒されてきた。その一方で、県や自治体はそれらの矢面に立つことを極度に恐れ、風評が発生・長期化する原因に正面から向き合うことを避けてきた。加害者から目を背け、「正しい情報が足りない」「丁寧に情報発信すればわかってもらえる」かのような前提を疑わない「風評対策」に終始した。(『原発事故「風評被害」で流出する国富!得をしている「風評加害者」の存在、対策不足は福島だけの問題ではない #知り続ける』)

 その代償として、矢面に立たされ続けたのは現場に生きる農家・漁業者・飲食店経営者・子どもたちだった。たとえばALPS処理水放出後に嫌がらせ電話の標的にされた飲食店経営者が、「汚染水」と喧伝してきた政治家に説明責任を求めても無視され、メディアにも「報じるのは難しい」と透明化され続けた

 今回の件を先行して報じた記事では、給食の廃棄を決定したのは教育委員会であるにもかかわらず、生徒へのプリントの連絡先には「学校給食共同調理場」の名前と電話番号が記されていたという。さらに、ネットでは「食べて応援を続けてきたが、風評加害に屈し食べ物を粗末にしたのでもう応援しない」に類した言葉も見られ、地域や住民に対する県外からの視線にも影響を与えている。またしても、現場が矢面に立たされている状況と言えるだろう。

 また、これまでの「風評対策」として、明るい話題や地域の魅力といったポジティブな話題ばかりを発信してきたことで、申し立て対応の経験不足にも繋がったのではないか。情報発信を妨害するデマや風評加害などの暴力から目を背け、理不尽に対しては頭を引っ込め「反論しない」「無視してやり過ごす」無抵抗と逃避を経験として積み重ねてきた帰結が、安全性とは無関係な個人からの電話たった1本で給食2100食を急遽廃棄するという極端にバランス感覚を欠いた脆弱さで現れた。問い直されるべきは、その矛盾を生み出した15年間の設計そのものだ。

 この構造的な歪みは、日常的な窓口機能にも将来にわたり深刻な影響を及ぼしかねない。

 行政への申し立ての窓口は、本来、現場で気づいた問題を届けるための貴重なインフラだ。中には、真に対応が必要な切実で正当な指摘が届くこともある。それが迅速に対応されるためには、経路が機能していなければならない。

 ところがいわき市では、2年前に発生したいじめの重大事態が公表まで2年を要していたことも明らかになっている。「本当に重要な問題」が届きにくく、「些細な不満」が即座に組織を動かす――これは深刻な逆転であり、「暴力から目を背け続けた」点で共通する。

 時に毅然と断ることは、声を封じることではない。むしろ、本当に必要な声が届く経路を守ることだ。どんな申し入れにも即座に動く組織は、一件ごとに担当者を消耗させ、やがて本当に重要な声が届いても判断する余力を失う。今回の廃棄決定を「配慮ある対応」と呼ぶことは、その経路を少しずつ壊していくことに加担するに等しい。

 最後に一点、立ち止まって問い直さなければならないことがある。今回の廃棄が事実上「承認」してしまった前提そのものだ。


新着記事

»もっと見る