〝黒船〟に押される3つの要因
現在の日本のメディア産業が、外資系の巨大プラットフォームの攻勢に対して構造的に劣勢を強いられている背景には、三つの複合的な要因が存在している。
第一に、長らく続いた国内広告市場への過度な依存である。22年時点での日本の放送産業の総収入約3.86兆円のうち約8割を地上波放送が占めていた。さらに、23年の民放テレビの広告収入だけでも約1.7兆円に上り、国内の広告市場だけで莫大な収益を確保できるビジネスモデルが構築されていた。
この豊かで巨大な国内市場の存在は、日本のメディア企業から、あえてリスクを取って海外市場を開拓するインセンティブを相対的に奪い去る要因となった。
第二に、巨大な資本力とテクノロジーを持つグローバルなデジタルプラットフォーム企業の出現である。NetflixやAmazonといった企業は、数億人規模という圧倒的なグローバル会員基盤から得られる莫大な収益と資金力を背景に、世界規模で一挙にコンテンツの権利を獲得する能力を備えている。これにより、一国家の国内市場だけを前提とする日本のテレビ局とは、根本的に異なる次元の競争条件が作り出されてしまった。
第三に、コンテンツIPの国際展開戦略における産業ごとの分断と遅れである。日本のアニメ産業は近年、急速に海外市場を開拓しており、24年には海外市場規模が2兆1702億円に達し国内市場を上回る成長を見せているが、一方でテレビ番組や実写ドラマ、音楽コンテンツなどの多くは依然として国内市場向けに最適化されており、企画段階からグローバル市場を前提とするビジネス設計が欠如していた。
世界のメディア・コンテンツ業界の今後
今後10年間で、世界のメディア・コンテンツ産業の構造はさらに根本的な変容を遂げていく。以下の四つの潮流が同時進行すると予測される。
第一に、ストリーミング配信は単なる「完成した作品の出口」ではなく、事業全体の中核をなすインフラストラクチャーへと進化し、それ自体がIP競争のあり方を規定する基盤となる。作品を放送・上映して終わるのではなく、視聴者の視聴データ、課金に至る行動履歴、視聴を離脱した要因、越境での視聴動向、さらには熱狂的なファンによって作られたコミュニティや文化「ファンダム」の形成過程に至るまでを精緻に把握・分析できる企業が市場の覇者となる。
こうしたデータ基盤を通じて、IPの開発・拡張・再投資が継続的に最適化され、競争の焦点は「単発のヒット作を生み出すこと」から「世界観を長期的に運営・拡張すること」へと移行する。すなわち、映画、ドラマ、ゲーム、音楽、ライブイベント、マーチャンダイジング、観光、教育などを横断しながら、一つのIPを10年単位の資産として育成する統合的マネジメント能力こそが、今後の競争優位の中核となる。
第二に、広告ビジネスのモデルが、従来のマスに向けた一斉配信型の広告から、データに基づく精緻な運用型広告へと完全に移行し、コンテンツ企業自身が広告代理店のような高度なデータ運用機能を内包するようになる。
