2026年3月29日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2026年3月29日

「モチベーションが上がらないので」

 「職場の心理学者」として活動する著者は信じられない例を以下のように記す。

 ある管理職を驚かせたのは、「私、そういうことには、あまり興味がないんです」といった反応だ。ここまでくると、もはや理解不可能だ。

 別の例ではこうした場面もある。

 「すみません、その仕事はモチベーションが上がらないので、私、できません」と拒否され、「ありえない!」という言葉が頭の中で反響したが、それを口にすると不穏な空気になるので、必死に呑み込み、冷静さを装うのに苦労した、という管理職もいる。

 筆者の目からしてもいずれも信じられないが、実際に起こっている状況だという。上司の指示は業務上の指示であり、それに従えないというのであれば、業務命令違反にあたる可能性もあるだろう。こうしたケースは、組織のガバナンス的にも大きな問題であるが、逆に考えると若い人が簡単に「できません」と言ってしまえる時代になってきたということでもある。

 さらに、「自分にはできませんという権利がある」と考えているかのような一部の若い人の風潮についても驚きである。権利には相応の義務、例えば別の仕事でそれなりの結果を出すことが求められるはずだが、「あなたにそれは可能なのですか?」という突っ込みを入れてみたくなるような感覚になる。

「好きなこと」ばかりが仕事ではない

 「やりたい仕事しかしない」というのも近年のゆゆしき問題である。著者によると、「そんなことをしたくて、この会社に来たんじゃありません」というのが典型的なセリフだそうだが、これもいかにもありそうなシチュエーションである。採用面接で何をやりたいかを聞かれて入社してきている社員がいることについて著者はこう記す。

 「あの面接のときに希望を言ったのに、話が違うじゃないか」と不満をもつ新人の気持ちもわからないわけではない。ただし、遊びや趣味とは違い、金銭報酬をもらうのと引き換えに労働力を提供するのが仕事なのだから、やりたいことだけをやっていればいいというわけにもいかない。

 本書は、こうした発言が出てくる背景には、学校でのキャリア教育の中で「好きなこと探し」が盛んに行われていることの弊害ではないかと指摘する。著者の視点は鋭く、例えば企業の入社面接に向けた願書(エントリーシート)などを書くにあたっても「好きなこと探し」の意識が刷り込まれ過ぎているのかもしれない。一方で著者は、「やりたいことがわからない」と苦悩する学生がいることについても記す。

 何としてもやりたいことを探さなくてはいけないといった強迫観念に足を引っ張られているとみてよいだろう。「やりたいこと探し」にはまってしまったせいで、多くの若者が就職の機会を失っていく。

 ここまでくると、仕事とは何か、あるいは仕事をどうとらえるべきか、というある意味で哲学的な問題にすらなってくるのだろう。


新着記事

»もっと見る