2026年4月13日(月)

Wedge REPORT

2026年4月13日

OJTが壊れた時代に必要な「思考OS」の再構築

 日本企業は長らく、OJT(On-the-Job Training)を人材育成の中心に据えてきた。現場で学び、先輩の背中を見て育つというモデルは、戦後の高度成長期から平成初期まで、確かに機能していた。市場が拡大し、技術が連続的に進化し、前例がそのまま未来の指針になった時代には、経験の蓄積こそが最も合理的な学習方法だったからだ。

 しかし、2020年代の日本はまったく異なる環境に置かれている。AI・DXの急速な普及、産業構造の転換、人口減少による市場縮小、そしてグローバル競争の激化。これらの変化は、過去の経験則を一気に陳腐化させた。そもそもコンサルやITを使っていて上司が“教えられるほど分かっていない”領域が急激に増えてしまい現場の知識だけでは意思決定が追いつかない。 

 デジタル前提で情報を処理する若手と、経験ベースで判断する上司の間で、“仕事”の認識そのものがズレ始めている。 現場熟知した迫力も自信も感じない上司からOJTを強要されたらスマホで転職してしまうかもしれないので遠慮するシニアもいる。 OJTはもはや人材育成の中心にはなり得なくなった。

 この状況で求められているのは、「思考OSのアップデート」である。ここでいう思考OSとは、問題設定・意思決定・他者との合意形成の“基本構造”である。特に中堅社会人には正解が存在しない状況で、何を問いとし、どの視点を持ち込み、どのように意思決定するかを上司に聞いては間違う可能性もあり、自分で決める力がないとZ世代から魅力的にみえない。これは見せかけの テンプレートやフレームワークの話ではない。問題設定力、多視点思考、利害調整、組織行動の理解といった、より深いレベルの思考構造の再構築が必要になる。

 国内MBAが再評価されているのは、この「思考OSの再構築」を、通学可能な距離感やオンラインなど現実的な形で提供しているからだ。 また海外MBAと異なり日本語だけで深い議論ができ、日本の制度・文化・市場を前提にケースを扱い、異業種の実務者が集まる。海外MBAのような“儀式”ではなく、実務と学びを往復しながら、現場の複雑性を扱う力を鍛える場として機能している。

 特に重要なのは、国内MBAが「ソフト脱藩」を可能にしている点だ。会社に所属したまま、頭脳だけ外部に出す。教育機関という現代の安全な藩邸に集う仲間と教授陣により信頼関係を前提に越境できる。異業種の視点を取り込み、自社組織の論理に飲み込まれず、自分ならではの事業戦略やキャリアを再設計する機会を得る。これは、戦後80年続いた企業国家の枠組みが崩れた今だからこそ成立した学びの形である。 

 国内MBAに通う人の多くは、転職や起業を目的にしていない人が多数派である。むしろ、「今の組織の中で、より良い意思決定をしたい」「組織の未来を担える人材になりたい」という動機が強い。就社モデルの中で、自分の頭で考える力を取り戻すための学び直しである。またMBAを自ら選ぶだけあり、このままの思考スタイルで自社のみ勝ち進むという視野狭窄ではなく企業を取り巻く市場環境を見据えたいという若者も多い。

 思考OSが変わると、会議が変わる。会議が変わると、意思決定が変わる。意思決定が変わると、組織の未来が変わる。国内MBAは、個人の学び直しを通じて、組織の変革を内側から促す装置になりつつある。 自社では保守層、反対勢力につぶされることも多いが、年齢、経験多様でも頭を使う努力を怠らなければ専門教員が寄り添い、プロ同士のディスカッションから成果物を生み出すことで、意思決定が変わる瞬間を共有する。

 次は、この「思考OSのアップデート」を前提に、人口減少・高齢化・産業縮退という日本固有の制約の中で、どのようなリーダーが求められているのかを考えたい。


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